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横須賀版 公開:2022年1月21日 エリアトップへ

【Web限定記事】ボクシング王者・勅使河原弘昌さん 「道は自ら切り開く」 久里浜少年院で特別講演

社会

公開:2022年1月21日

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チャンピオンベルトを抱えて登壇した勅使河原さん
チャンピオンベルトを抱えて登壇した勅使河原さん

 久里浜少年院(横須賀市長瀬)で1月14日、在院している新成人を祝う成人式が行われ、18人が出席した。例年、院内で開かれている式典だが、今回はマスコミ各社も招かれた。冒頭、齊田浩院長は「夢を実現するために力を注いでください。努力を続け、困難を乗り越えた先には、晴れ晴れとした景色が広がっているはず」とエールを送った。その後、保護司など来賓からの祝辞に続き、新成人代表者があいさつ。自身の過ちで婚約者を失った過去を語ったうえで「二十歳を迎え、本気で変わりたいと思うようになった。つらいことがあっても逃げ出さず、強い気持ちで自分自身と闘っていきたい」と誓った。

 第2部では、少年院を2度経験した過去をもつプロボクサー・勅使河原弘昌さん(31)の試合風景がスクリーンに映し出され、新成人が食い入るようにスライドショーを見つめていると、チャンピオンベルトを肩に掲げた本人が登場。自ら道を踏み外したが、努力を積み重ねてOPBF東洋太平洋スーパーバンタム級王者まで登りつめた軌跡を語る特別講演が行われた。

母からの虐待、繰り返す非行

 群馬県で生まれた勅使河原さん。物心ついた時にはすでに両親が離婚しており、父の再婚相手から虐待を受けて育った。父の前では優しく振る舞っていた義母だが、陰では“鬼”と化した。木刀やほうきなどで、毎日理由もなく殴られる日々。全身あざだらけだったため、学校へ行くと教員らに気づかれてしまうことを恐れた母の独断で、通学させてもらえなかった。食事も満足に与えられず、親が残したものだけ唯一口にすることができた。部屋に監禁され、トイレに行くことさえ許されず、我慢できずにその場で漏らしてしまうと、また激しく殴られた。父はそのことを知らなかった。

 「死ねたらどんなに楽なんだろう」。そんな思いが頭の中で巡り、ある夜、自宅の2階から飛び降りた。「でも高さが足りず死ねなかった」。冬の寒空のもと、近くのコンビニエンスストアに走って逃げると、傷だらけの少年の姿を憐れむように通りすがりの人が心配し、温かいココアを差し出してくれた。「その味は今でも忘れられない」。しかしその後、自宅に引き戻され、さらに壮絶ないじめを受けるように。「神様なんてこの世にいないんだ」と世の中を憎んだ。小学5年生の時、ようやく父が虐待の存在に気づき、それが引き金となって義母と離れることができた。親子2人暮らしとなり、新しい学校へと転校した。ただ、それまでろくに学校生活を送った経験はなく、友達の作り方を知らなかった。ある日、店頭で母に強要させられていたという万引きを披露すると、同級生たちは驚いた。「周囲から認められたようで心地良かった。人と違うことをすれば注目されると勘違いしていた」。歪んだ内面はすでに歯止めが利かなくなっていた。

 中学に入ると、非行はさらにエスカレート。悪友に進められるがまま地元の暴走族に入った。16歳で傷害事件を起こして逮捕され、新潟県にある少年院に入院。まだこの時点では、反省していなかったが、漢字を覚え、本を読むことの娯楽を知った。その後、出院したものの、わずか3カ月で再逮捕。小田原少年院へと送られた後も院内で暴れ、単独室へ。「全部義母のせいだ」とこれまでの恨みをぶちまけた。その時、教官に「お前の大切な人生を大嫌いな母親に決められているのと一緒だ」と思いもよらぬ言葉が返ってきた。「そうだ。自分が選んだ道だった。これからは何が起ころうとも自分の責任という覚悟を持とう」とはっと我に返り、考えを改めた。

人生を変えた一冊

 そんな時、一冊の本と出合った。ボクシング世界チャンピオン・輪島功一の自伝だった。北海道で生まれの輪島さんは、家が貧しく、幼少の頃から学校へ行かせてもらえなかった。一時、漁師をめざしたが、船酔いがひどい体質で、あえなく断念。上京後、建設現場で働いた。通勤途中、ボクシングジムにあった生徒募集の貼紙を発見し、興味本位で門を叩いた。それからわずか3年半、24歳で王者に輝いたことが書かれてあった。

 本のページをめくるごとに、自身の人生と重なり合った勅使河原さん。「これまで不器用な人生を歩んできたが、努力と根性には自信がある。自分もいつかチャンピオンになる」とプロボクサーを志すように。以降、真面目に院生活を送り、19歳で出院。都内にある輪島ジムへ入門した。その間も、仲間からの悪い誘いもあったがすべて断り、師である輪島さんと同じように建設現場では働きながら、毎日必死に生きた。「苦しめば苦しむほど、チャンピオンになれる可能性が高い」と、ジム内では他の選手より何倍も努力した。ついに結果が実り、2018年に念願だったベルトを手にすることができた。

 「こんな自分でも拳で人生を切りくことができた。皆さんも自分の限界を決めず目標に向かって突っ走ってほしい。壁にぶち当たることもあるが、あきらめずに挑戦を続ければ神様は振り向いてくれる」と新成人を激励。華麗なシャドーボクシングも披露した。

「覚悟を定めよ」

 講演後、勅使河原さんは新成人からの質問にも答えた。「ずばり勝利の秘訣は?」と尋ねられると「スポーツ経験がなかった自分でも、死に物狂いで鍛錬を積み、手に入れたベルト。本気で人生をかけているから勝てた」と説き、「ボクシングだけじゃない。皆さんが自分で見つけた夢のゴールに覚悟を定めて取り組んでほしい」と応援した。最後は、退場する勅使河原さんの背中に向かって盛大な拍手が送られた。

 久里浜少年院は非行の程度が深い少年や外国人で言語など処遇上の配慮を要する少年らを収容。現在16〜21歳の51人が職業・教化・生活・特別活動・体育指導を通して、出院後の社会復帰を目指している。

シャドーボクシングを披露した勅使河原さん
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