(PR)
新時代を駆け抜ける― 起業人
培った経験やノウハウを活かした独自のビジネスで、未来を切り拓こうとする人たちがいる。彼らの取り組みに社会課題の解決や地域活性のヒントがありそうだ。
「横須賀の刺繍文化」発信役に Dagr Figaro田沼千春さん
差し出された名刺には「横須賀刺繍職人 三代目」とある。田沼千春さんが手掛けるのはスカジャンやワッペン。使用しているのは「横振りミシン」だ。刺繍の幅を膝や足の操作で調整しながら”描いて”いく。オーダーの依頼にはイメージやストーリーを一緒に膨らませながら形にする。「みこし」をモチーフにしたことも。製作は多くて月に2着。機械式ミシンによる自動化が主流となっている中で、「職人の手仕事を知ってほしい」と話す。
群馬県桐生市出身で刺繍職人の祖父、父、伯父に囲まれて育った。その仕事ぶりを側で見ていたが、「横須賀の刺繍はすごい」と気付いたのは、アパレルやものづくりなどに携わって、市外で暮らすようになってから。帰省し、遊び場だったドブ板へ足を運ぶと職人が減っている現状を目にし、危機感を感じた。挑戦したいと相談するも父をはじめ周囲は猛反対。それならばとミシンを先に買ってしまった。最初は直線縫いもままならかったが、押し入るような形で修業を続けた。5年近く経ち、自分のいないところで「俺に似て上手い」と語っていたと知った。ブランドを立ち上げたのは、その父が急逝してから。「ダグ・フィガロ」とは太陽神と馬という意味で「これを名乗っていた夢を見て」。最近では、ライブDJに合わせた実演など、業界に新風を吹き込んでいる。
1月から個人事業主として、新たなスタートを切る。「気持ちを入れられるのが手仕事の醍醐味」。父の背中を追いながら、横須賀発の刺繍文化を発信していく。
遺影撮影に商機見出す YEAH PHOTO越中正人さん
思いおもいの場所で遺影撮影を―。フォトグラファーの越中正人さんは、昨年6月から出張型の遺影撮影サービスを開始した。その名も「YEAH PHOTO」。依頼主の希望した場所へ訪問し撮影するというもので、当事者のバックボーンを反映させた新たな遺影の形を提案している。
滋賀県出身。カメラマンとして活動している中で、知り合いから「遺影を撮ってほしい」と頼まれて以降サービスが口コミで拡散。「事業として成立するのでは」と考え起業を決めた。
専門学校時代に横須賀市育ちの写真家・石内都氏の作品を見て以来、「このまちに住んでみたい」とあこがれ移住。昨年6月に起業した。事業をPRできる場を探していたところ、市主催の新規事業オーディションを見つけ参加し、独自性や実現可能性が審査員から評価を受け入賞に輝いた。
しかし、サービスを開始して半年、ふたを開けてみれば、依頼は1カ月に1件あるかないか。それも、市外からの依頼のみだ。「まだまだ市内での認知度が足りていない」―。事業の周知が最大の課題だ。
遺影サービスを提供する一方で、アーティストとしても活動。先月も、都内で個展を開催。横須賀の風景写真にAR(拡張現実)を搭載した作品を披露するなど、新たな挑戦を続けている。「ゆくゆくは、撮影した遺影写真で、ポートレート展を開きたい」と、アートと融合させた新たな遺影の形を提唱していく。
車暴走事故防止に新対策 株式会社カイ大野一郎さん
全国で年間約7千件、運転に不慣れな若年層と75歳以上の高齢者に多い、自動車ブレーキの踏み間違いによる暴走事故。
各メーカーが事故防止機能の研究を進める中、市内鴨居の株式会社カイの大野一郎さんが独自開発したのはブレーキ操作を変える特殊パーツ。鉄板と蝶番、加工された金属棒などを組み合わせたもので、右足一つでアクセルとブレーキを操作するオートマチック車を左足でブレーキを踏めるようにする。「操作は慣れやすく、街の自動車工場でも交換設置できる。AT車なら納車後でもほぼ全ての車種に取り付けられるのが最大の特徴」という。
旧・運輸省のパイロットとして航空機事故の原因解析に携わっていた大野さん。視力低下を理由に15年ほど前に退官した。「これまでの経験を生かしながら多くの人に役立つ社会貢献をしたい」という思いから、意図せずに発生してしまう人為的過失「ヒューマンエラー」から生まれる車の暴走事故に着目。九州大学で研究を続ける傍ら、還暦前に自ら起業に乗り出した。「死亡率が高い踏み間違え事故は誰にでも起こり得る。このパーツで悲惨な事故が社会から減り、悲しい思いをする人が一人でも少なくなれば」と力を込める。
現在は特許を出願しており、今後普及を本格化させたい意向。「ドライバーへの周知が課題。『横須賀発』のシステムとして、全国に広めていきたい」。見据える未来の車社会の展望は明るい。
次の経済の仕組みを創造トレードログ株式会社 中村雅弘さん
「ブロックチェーン」と呼ばれる技術に新しい経済システムの到来を感じている。船越町在住の中村雅弘さん。26歳の若さながら昨年7月、共同創業の形で会社を立ち上げた。
ビットコインに代表される仮想通貨の世界を実現させているのがブロックチェーンだ。「端的にいえば、改ざんできない情報を共有できるサービス。ハッキング事件でネガティブな印象を持たれがちだが、それはコインの取引所が狙われたという話。コイン自体を偽装することはできない。強固なセキュリティで守られている」と熱っぽく語った。
大学生の頃、都内の商店街の活性化プロジェクトに全力で向き合った。NPO法人の代表を務め、空き店舗にカフェを開設して成果を上げたが、半径数キロの社会にしか影響を与えられない現実に直面。マンパワーの限界を感じ、「地域活性×IT」という領域に活路を求めた。この分野は素人同然だったが、先駆的に取り組む起業家たちに熱意を伝え、技術習得に励んだ。
ブロックチェーンを取り巻く環境は、インターネット黎明期と同じ状況にあるという。「技術は未成熟。企業も明確な価値を見いだせていない。法整備もこれからだが、既存の経済を覆すインパクトを秘めている」
アイデアのひとつに「横須賀コイン」がある。いわゆる地域通貨だが、買い物の決済だけでなく、イベントやボランティアの参加にコインを付与する新しい地域循環型経済を思い描く。そこでは、生活の価値や心の満足を高めることに力点を置く。「儲けることに意味を感じない」。新しい感性を持ったイノベイターである。
起業家特集
|
<PR>
|
|
|
|
|
|