3月22日に大会を主催する「片瀬こま保存会」の会長を務める 熊野 安正さん 片瀬在住 79歳
生きた証と伝統を後世に
○…昭和の時代に湘南地域で最強の喧嘩駒とされた「片瀬こま」。今では、ただ一人の職人になる。3年前、地域住民が中心となり昔ながらの文化を後世に残し、伝統的な制作技法を伝えていこうと保存会が設立された。「みんなに持ち上げられちゃって」と会長に就任。片瀬小や浜見小への出前授業やイベント参加などを通じ魅力を伝えている。
○…片瀬こまは緑と朱色の2色で、本体に椿、芯棒に樫を使い、駒同士をぶつけ合っても割れにくいのが特徴。制作工程は木を削って形を整え、芯棒をはめて色付けとシンプル。だからこそ作業の丁寧さが大切で、神経を遣うのだとか。制作中は自宅横にある2坪ほどの作業場で、無心になって木と向き合っているという。
○…3人兄妹の長男として片瀬で生まれ育つ。社会人時代は包装資材を扱う大船の企業でサラリーマンをしていた。「営業の外回りや工場での内勤など、現場でなんでもしたな」と当時を思い出し、笑う。第一線で仕事にあたる身で、片瀬こまと接点を持つきっかけは、駒職人だった父の幸太郎氏が楽しみながら作業する姿に触発されたこと。自身も暇を見つけては手探りで駒作りをするようになったそうだ。何気なく始めた趣味は定年後から本腰を入れるように。今はその日の気分で作業場に向かい、先代から受け継いだ作業場で一つひとつ丁寧に愛情を込めて作る。職人らしく口数は少ないが「片瀬こまは丈夫だからこれからもそれぞれの家で残っていくと思う。自分が作ったものが時代を越えて残ることは、生きた証にもなるかな」と嬉しげに語る。
○…跡を継ぐ職人は今のところいないが、「駒を作ることや遊ぶ文化が次の世代にも受け継がれれば嬉しい。でもお願いするものではないから、駒に魅力を感じる若い方が自然と増えてほしいね」と語る。穏やかに優しく片瀬こまの行く末を見守る。
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