国の重要無形民俗文化財に指定されている大磯町の「左義長」が、1月14日(土)に北浜海岸で行われる。正月飾りや竹、松などで作った高さ8メートルほどの「サイト」を燃やし、無病息災や家内安全を願う。会場に並ぶ9基のサイトの中で一際目を引くのが、数千羽の折り鶴を飾る大泊地区のサイトだ。同地区で生まれ育った渡邉隆史さん(73)が6年前から始めた。「観光客が、『何これ』って驚いてくれたらいいね」と、冬空にたなびく折り鶴のお披露目が待ち遠しい。
「まだまだ折りてぇ」
大磯町の左義長は、北浜海岸沿いの9地区で江戸時代から続く伝統の火祭り。浜辺に建てたサイトにその年の恵方から一斉に点火し、夜空を焦がすように燃え盛る炎が観客の目を楽しませる。
渡邉さんも、左義長の開催を心待ちにする1人だ。住まいは、左義長の担い手である漁師が多く住んでいた大泊地区。「小さいころ、サイトに使う竹を裏山に登って調達したもんだ。(道祖神を祭る)お仮屋に籠るにも優先順位があって、俺が入れたのは小学5・6年生のとき。(賽銭の中から)初めてもらった小遣いは30円だった」と懐かしむ。
サイトに折り鶴を飾るようになったのは、7年前に大病を患ったことがきっかけだった。病院のベッドで暇を持て余し、お菓子の包装紙や新聞の折り込みチラシなどで鶴を作り始めた。
捨てるのはもったいないと翌年の左義長でサイトに飾って以来、1年間を健康で過ごせた証として折り鶴を奉納している。観客が「きれいだね」と見入る姿を目にするたび、「また来年も」と決意を新たにした。
「テレビは見ないし遠出もしないから、鶴を折るくらいしか楽しみがなくて」と、居間のソファでたばこをふかし、慣れた手つきで鶴を折り上げる。通院先の病院にも紙を持ち込み、診察の待ち時間に数羽を仕上げる没頭ぶりだ。
おかげで今では、折り鶴の束で覆われた光景が大泊のサイトのシンボルになった。「また飾りてぇなぁ、鶴を折りてぇなぁ、その一心だよ」
義弟の死 哀悼の思いも
昨年5月、再び病に見舞われ、同時期に義弟が他界。既に今年分の折り鶴を作り始めていたが、身内の不幸に考慮して祭りごとからは身を引こうとも考えたという。
それでも、近所住民から供養の意味を込めて鶴を折ったらどうかと励まされた。「折り鶴に火が付けば、空を飛んで天国の義弟に届くんだよと言われてね。よし、じゃあ続けようと。完成させることができて本当に良かった」と、これまでで最多となる約6千羽をこつこつと折った。
渡邉さんにとって、愛着ある下町に息づく伝統行事への思いは強い。「今は左義長のおかげで、今年も1年無事に生きられたと実感できる」。担い手である漁師の減少や資金難で存続が危ぶまれるが、「いつまでも絶えることなく続いてほしい」と願ってやまない。
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