地域で長年がん治療に携わってきた医師であり、自らも大腸がんをり患し、闘病中である森俊一氏(86)。「がんとの関わり方」について自らの体験を踏まえ、話を聞いた。
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東京大学医学部を卒業後、1983年の映画「南極物語」のモデルにもなった南極観測船「宗谷」に、医務長として乗船。医師としてのキャリアを「宗谷」でスタートさせた。
帰還後は米国のスローン・ケッタリングがんセンターで臨床化学療法部部員、ミリアム病院外科主任としてがんの研究に従事。がん治療の研究に打ち込んだ。米国から帰国し、1975年に中央区に千代田クリニックを開院して以来、これまで数千人の患者のがん治療にあたってきた。現在は、娘のちかさんが院長を引き継いでいる。
「備え」を大切に
そんな森医師が、大腸がんだと判明したのは68歳の頃。森医師は症状から自ら「大腸がん」だと診断し、翌日には手術に踏み切った。現在も定期的に検診を受けているが、早めの対処が功を奏し、今のところ再発はないという。
医師であるからこそ自身は診断に落ち着いていられたものの、周囲の家族、特に一番近くにいる妻の動揺は激しかった。「母は本人より心配していました」とちかさんは当時を振り返る。
森医師はがんが見つかったとしても「落ち着いて判断することが大事。動揺してしまうと、冷静な判断ができなくなってしまいます」とし、だからこそ「体の不調や異変を相談できる『かかりつけ医』を持つことが大切です」と話す。
そして、自身の経験や長年のがん治療の経験から、早期発見が最重要だと語気を強める。来院する患者の多くはがんが進行しており、初期患者は少ないという。特に乳がんは触ることで簡単に判別できるが、それでも自覚症状が出るほど悪化してから気付くパターンが圧倒的に多いといい、森医師は「がん」に対する関心の薄さを感じている。
「今や2人に1人ががんになる時代。とにかく検診を受け、早期発見をすることが大切です。がんは高齢者の病気だと思われていますが、乳がんや子宮頸がんは若い人にも多い病気です」と注意を促す。
他にも、正しい知識を得ることや治療にかかるお金のことを考え、保険に入るなどの備えをしておくことも勧めている。
がんと共存する
「がん」と診断されるのが怖くて、検診に行かない人も多いという。「がんになると何もかもを捨て置いて、治療に専念しなければならない」と思われがちだが、森医師は「そんなことはありません」と否定する。
定期的な通院や治療により、体調をフォローすることで同院で治療を受けている患者の中には「働きながら家族を持ち、幸せに暮らしている人もいます」と話す森医師。り患すれば必ずしも不幸ということではなく、がん治療と日常生活の両立は可能である場合もあるので悲観するのはよくないという。
がんは他人ごとではない。森医師は「向き合い、上手く付き合っていきましょう」と呼びかけた。