京急久里浜駅から徒歩4分の高架下に「うどんカフェうせい」と書かれたオレンジ色の看板が一際目を引く。店主は知的障がいを伴う自閉症がある村木静さん(24)。2016年の開店以来、もちもちとした食感の手打ち麺が話題を呼び、来店者の舌を唸らせてきた。
好物を職業に
鴨居在住の静さんは岩戸養護学校出身。在学中、クリーニング工場で職場実習を経験したが、洗濯物が乾いているのか分からない、客の顔と名前が一致しない、交通機関が使えないなど「出来ないことが炙り出されるようで辛かった」と母親の雅美さんは振り返る。
静さんがうどん作りを始めたのは、ちょうどその頃。「食べ物の好き嫌いは多いけれど、うどんは大好物。自分で作って特技にしたらどうか」という父親の豊さんの提案がきっかけだった。静さんはコミュニティセンターの教室などで黙々とその腕を磨いていった。
そんな息子の姿に可能性を感じた両親は、うどん店を開くことを決意。準備資金は少なかったが、駅から少し離れた場所に居酒屋の居抜き物件を見つけた。こじんまりとした10席ほどの建物はガラス張り。静さんが全身を使って生地をこねたり、大きな包丁で等間隔に麺を切る様子は開店から4年半経過した今では日常の風景となり、店の外から子どもたちがじっと覗いている日もある。
成長できる居場所
麺作りは静さん、店舗運営は豊さん、調理と接客は雅美さん、コーヒーを淹れるのは祖母の敬子さん。2年前から「お手伝い」として、SNSで静さんの取り組みを知った吉井在住の宮野恵さんも加わった。福祉職に従事していたが体調を崩し、現在はリハビリを兼ねて店を支えている。「お互い助け合える温かい関係が築けている」と居心地は良さそうだ。
ここ数年で常連客も増えた。週4回は訪れるという野比在住の山田友造さんは「味に惚れ込んでいる。ないと困るからずっと続けてほしい」と店を後にした。「初めは人に興味を示さなかったけれど、徐々に感情が豊かになり、言葉数も増えて、毎日成長を感じる」と雅美さん。最近では静さんが腹を叩いて「ありがとう」、手を振って「バイバイ」と感謝を表現する姿も見られるようになったという。
「障がいのある子を持つ親が、自分の居場所を手に入れた静の背中を見て涙することも。障がいの有無に関わらず皆一緒に働ける環境を作り、社会の担い手を増やしたい」と雅美さんは話す。
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