――天守閣の木造化についてはどうお考えですか。
「今回の天守閣のリニューアル以前から民間の『みんなでお城をつくる会』から提言をいただいており、私も1960(昭和35)年に再建された現在の天守閣を立て直す時には、可能ならば本格的な木造の天守に再建したいと思っています。文化庁の見解は、歴史的な資料がきちんと整っていないとできないということなので、民間と協力して研究を進めていかなければならないと思っています」
――南足柄市と合併を視野に入れた協議のスタートも大きなニュースでした。
「神奈川県西部の2市8町は、半世紀近い広域連携の中で、小田原藩や足柄県として一つの地域経済圏で、いずれは一つに、という思いを共有してきました。各時代の中で成就しませんでしたが、高齢化や財政状況の厳しい中、この地域で中心的な役割を果たしてきた小田原市と南足柄市はそういう危機意識や中心市の強化についての課題を共有していましたので、まずは2市で具体的に議論していくということで協議会の設置に至りました。
昨年10月から協議会が始まり、1月24日に行われる第3回協議会あたりから、本格的な議論に入っていきます。今年の10月までに協議会として一定の結論を導いていきますが、合併する場合は新市まちづくり計画をまとめ、中核市移行や中心市と周辺8町との連携をどうするのかなどを盛り込んでいきます」
――市長が2市の協議を必要と思う理由は何ですか。
「今後の日本の都市構造を考えた時、財政基盤のしっかりした一定程度の規模を持った中心市があるということが、重要になってきます。国は現在の中核市程度(人口20万人以上)の人口規模と統治能力を持つ都市を中心に日本の圏域を構築し、そこに色々な権能を移していくビジョンを持っており、中核市への移行は、小田原市単独か合併後の市かはわかりませんが、中核市規模の中心市を県西地域に持っている必要があると思っています。合併する・しないの結論がどうあれ、中心市規模の都市を県西地域の真ん中に据え、周辺の自治体と個々の政策面で連携を取っていく地域圏を作り上げることは、避けては通れないと思っており、予断を排してしっかり議論することが大切です」
――合併に関するメリット、デメリットについてはどうお考えですか。
「小田原市単独では、2022(平成34)年度に一般会計の収支が赤字になるという財政推計が出ています。それ一つ考えても健全な状況を保っているうちに確かな一手を考えることが必要です。合併は、行財政改革の面でも、今後の都市制度の対応の面でも、最も現実的で非常に有効であると思っています。これだけ恵まれた地域資源を持っていて、財政的に悪化することがわかっていて放置しておくわけにはいきません。この地域こそ、次代にきちんと適合できる持続可能性を備えていかないといけないと思っています。そういった点で中心市の在り方協議というのは、県西部の未来にとって重要な議論になると思います。
周辺の町の現状も厳しく、今の公共サービスの水準を維持することが、今後ますます難しくなることがはっきりしています。今後の連携を模索する意味でも今議論しなければ、機会を逸することになりますので、議論していかなければならないと思っています。
予定では今年の10月ぐらいまでに2市協議の結論を取りまとめます。その段階で、例えば「福祉の分野のこういった事業がこういった形で実施できるので、サービスはこういう感じになります」とか、「公共施設の配置はこういう風に進めます」など、ほぼすべての事業の姿が見えてきます。10月の段階では、合併後の市はこうなる、といったものが絵として出てきますので、その段階で市民の皆さんに判断いただける素材が揃います。協議会が合併した場合の2市の姿を示した後、それを受け、住民投票などそれぞれの市の住民がどう判断するのかを問うプロセスに入っていきます」
――観光戦略ビジョンが立ち上がりましたが、2017年の戦略は?
「2017年は観光戦略ビジョンに基づいた取り組みが、本格的にスタートします。その一つが地域DMOです。地域DMOは観光協会の中に立ち上げ、戦略的にフットワーク良い陣容を配し、推進力となる組織となります。小田原には、観光客が魅力に感じるようなものが、いっぱい眠っていますので、この地域の観光振興にまつわる様々な力を結集し、地域DMOを中心にインバウンド対策など一つひとつ形にしていきます。
2019年のラグビーワールドカップや2020年の東京オリンピック・パラリンピックは、私たちにとっても大きな目標ですし、ここまでに小田原として構築しうる設え、ラインナップできる魅力的な資源揃え、魅力揃えをしっかりやりきりたいと考えています。
小田原駅東口のお城通り地区再開発も昨年12月に優先交渉権者が決定し、新しい再開発のプランが示されました。そこには都市ホテルや駅前図書館など小田原の駅前の顔に相応しい施設が立ち上がってきますので、こういった施設も小田原の観光振興、交流人口獲得に大きな役割を果たしていくことになると思います」
――国際的なイベントを控えた中で、インバウンド対策はどのようなものをお考えですか。
「Wi-Fiや多言語表示など基礎的なことは、当然整備していきます。
最近の観光客は、いわゆる有名な観光地というよりも日本人や小田原の人が普通に暮らしているところに魅力を感じる人が増えており、外から見た小田原の魅力は何なのか、何を求めて来ているのか、どういうところに泊まっているのか、というようなリサーチをし、ニーズを掴むことが大事だと思っています。そういう観点で魅力を掘り起し、マップ化し、外国人対応のマニュアルを授けていく。そうやって今あるものをインバウンド対応にしていくだけでも相当魅力を発揮できると思っています。特別な施設を新しく作る以前にやるべきことは沢山あります。
そんな中でほしいのは宿泊施設。再開発地区にホテルができますが、民家にちょっと手を加えたB&B(ベッド&ブレックファスト)や、朝食が無くてもOKの、民泊に近い簡易な宿泊施設も増えていくと良いなと思います。空き店舗や空き家をリノベーションすることで、典型的な日本の地方都市で歴史のある小田原だからこそ提供できる宿泊施設がもっとできると思います。実際に本町・幸地区ではそういう動きがあるので、ぜひ進めていってほしいです。
――昨年は沢山の小田原ブランドが様々な方法で発信された年でもありました。
「ふるさと納税は昨年末の段階で10億円を超えました。これは返礼品に足りうるものが小田原には豊富にあるからで、大変有難く感じています。
これまでも農産物の6次産業化や高付加価値化、かます棒に代表される小田原魚のブランド化、森林資源や木材を活かしたまちづくりなどブランド開発をしてきましたが、まだまだ商品化、サービス化しうるネタはたくさんあります。また小田原全体を包むブランドイメージの打ち出しも大切だと思っています。一昨年製作した『小田原ブック』は小田原の都市セールスと若手世代の移住促進向けのパンフレットですが、滞在して、暮らして、子ども達や若者が育っていって、働く楽しみがある。そういった都市ブランドを作ることが必要ですし、トータルで小田原の魅力をどう伝えていくかという都市セールスが非常に重要になってきます。小田原ブックは年末に第2弾を発刊しましたが、都市ブランドの発信はこれからも強くしていきたいと考えています。
小田原市だけでなく県西地域全体がひとつになって地域圏として魅力をPRすることも大事だと思っています。海を持った小田原、深い山を持った山北、温泉も美しい田園地帯もある。東京にこれだけ近くてバリエーションのある特性を持った地域圏は、他にはないと思いますので、小田原はむしろこの地域圏のハブ都市として、広域で打ち出していくべきだと思います」
――移住を促進する意味では子育て支援施策も重要なポイントだと思いますが。
「昨年『保育園落ちた、日本死ね』のブログに代表されるように、待機児童対策は現在、大きな議論になっています。小田原市は県内でも児童数に対して保育園の定員数が一番多く、保育のインフラは整っているのですが、それでも毎年20人程の待機児童が発生します。公立も民間も保育園の定員拡大に努めてもらっており、この4月に新たな小規模保育園も開園し、小規模保育だけで0〜2歳児の定員が61人分増えます。他にも企業主導型保育がスタートしますので、今春からはこれらの定員増により、相当受け止められるのではないかと思っています。街なかでも幾つか保育所の開設の動きがあり、2018(平成30)年度からは、さらに保育のキャパシティは整ってきます。この国全体が経済の底割れを防ぐ意味で、女性が働き、安心して子育てできる体制を作れるかどうかというのは大きな論点で、保育の受け皿の拡大は必須ですのでしっかりやっていきたいと思っています。
小児医療費の助成は、昨年10月から中学校卒業までに対象を拡大させ、病気にかかることが多い小学校就学前の幼児については、所得制限なしにすべて無料で医療を受けられるようにしました。県内で通院助成の対象を中学生卒業まで拡大したのは小田原市を含め5市だけです。
また旧社会福祉センターの跡地がしばらく更地のままで心配をおかけしていましたが、予定通り産婦人科が開業する方向で、昨年中に契約が取り交わされました。順調にいけば今年の冬には開設されます。これは小田原市のみならず、県西地域の妊婦やその家族にとっては大きな福音になりますし、私たちも期待しています。
地域の中で子どもたちを見守り育てる機運も高まっており、学校でもコミュニティスクールがこの先、全小学校に広がっていきます。そうなると学校と地域が一緒になって子どもたちの面倒を見る体制が整っていきます。放課後児童クラブに入れる子どもではないけれど、授業の後、学校にそのまま残って補習をしたり、総合体験をしたりする子ども教室も数年のうちに全校に設置を目指していきますので、保護者にとっても非常に安心材料が増えていきます。
こども食堂の取り組みなども一部の地区で始まっており、地域全体で子どもたちを見守る、という動きはありがたいことに小田原ではだいぶ育っています」
〈1月14日号に続く〉