区内に住む90歳の白井正子さんが昨年、16年にわたる研究課程を経て神奈川大学大学院歴史民俗資料学研究科で博士号を取得した。東北や北陸地方を中心に、神社に見られる拝殿「長床(ながとこ)」に関する研究を続け、度重なる現地調査の末に古くから伝わる伝統神事をその目で確かめることに成功。たゆまぬ研究の成果を、350ページに及ぶ博士論文にまとめ上げた。
73歳で院生に
白井さんは、一級建築士として設計の仕事に携わる中で重要文化財などの建造物に対する関心が高まり、背景にある歴史や人々の暮らしについて理解を深めようと約20年前から民俗学を学び始めた。2004年には73歳で神奈川大学大学院に入学。4年間で歴史民俗資料学の修士課程を修めると、研究生を経て同大学院の博士課程に進んだ。
知られざる伝承解明
神社にある建造物「長床」の存在を知った白井さんは、修士課程時代から論文の研究テーマとして取り上げてきた。しかし、損壊しかけた長床を地元住民が復元したという話は伝わるものの、詳しい史料は残されていなかった。
博士課程に進むと、意を決して福島県喜多方市や福井県小浜市などでの本格的な現地調査に乗り出した。長床があったとされる場所すら見当がつかない中、住民から話を聞くためにバスも通らない道の先にある集落に通い詰めたという。
調査の末、長床で行われていた伝統神事の存在を突き止めた。数年後には小浜市の若狭神宮寺で行われている「お水送り」と呼ばれる儀式を実際に目にし、同寺の水が奈良県の東大寺二月堂の水取りに届く言い伝えを知ることができた。
未知への探究、力に
白井さんは「地元の方が守ってきた文化は忘れ去られたように見えても大切に受け継がれ、ある時パッと世間に出てくることがある」と語る。「世間一般に知られていない未知の分野であり、誰もやっていないことだからこそ、飽きることなく学び続けられた」。長年にわたる研究課程は終わったが、白井さんの”知の探究”はこれからも続いていく。
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