新春市長インタビュー 財政健全化 意識の共有を 任期中の借金圧縮に意欲
2012年の幕開けにあたり、本紙では吉田雄人市長にインタビューを行った。任期中の取り組みを示した政策マニフェストの「今」を率直に語るとともに、就任3年目の重点課題を挙げた。また、大震災を経験して浮き彫りとなった地域の防災対策については、見直しを進めていることも述べた。(聞き手は本紙編集長・安池裕之)
─まずは昨年1年を振り返りますと?
「やはり一番の出来事は東日本大震災。一時的に影響を受けましたが、横須賀が元気でないと被災地支援はままならない、そういった思いであえてシティセールスなどに力を入れました。5月のカレーフェスティバルの開催や8月の開国花火大会の実施は、様々な意見を頂きましたが、やって良かったと思っています。また、農産物直売所『すかなごっそ』、温浴施設『湯楽の里』といった東西の観光拠点を誕生させたことなど、積極的に取り組んでいる観光集客活動が形となり、今後の展開が楽しみになってきました」
─軍港めぐり、記念艦「三笠」は横須賀観光の看板となっています。
「三笠が登場したNHKスペシャルドラマ『坂の上の雲』は、横須賀市にとって非常に大きなインパクトとなりました。国民的人気を誇るドラマの誘致などなかなか叶うものではありません。ここで集まった注目を一過性のブームとして終わらせてはいけません。放送後の余韻を楽しめるような展開を考えています。その一つとして、ドラマの主人公のひとりである正岡子規に焦点を当てた企画展を2月に横須賀美術館で催します。これに加えて、一度訪れた観光客に再来訪を促す『W観光キャンペーン』を実施しています。横浜・川崎・東京・埼玉を主なターゲットに、市内観光の多面的な楽しみ方を紹介するプロモーションを行っています。今後の具体的な手法としては、旅行代理店向けにツアーデスク、露出を高めるためのメディアデスクをそれぞれ開設。一般観光客については、どんなことでも相談できる観光コンシェルジュが対応していきます。複合的な仕掛けで効果を高める狙いです」
─昨年、重点課題として掲げていた「自治基本条例」「地域運営協議会」について、現在の状況はいかがでしょう。
「多くの市民の皆さんの意見を聞くために、今月5日までパブリックコメントを実施しています。議会でも特別委員会が立ち上がり、審議していただいています。地域運営協議会は追浜・浦賀でモデル導入されていて、浮かび上がった課題の洗い出しを行っている最中です」
─議会では条例に「住民投票」を盛り込むことへの慎重論があります。
「住民投票に関しては、議会や間接民主主義を否定するものではありません。横須賀の大きな問題に直面した際に、市民が意思表示できる補完的制度だと思っています」
─大きな問題とはどんなものでしょう?
「今の段階で個別案件を想定するのは相応しくありませんが、他の自治体では合併の是非を問う際などに用いられています」
─大震災以降、市民の意識を含めて様々な変化がありました。まずは課題が浮き彫りとなった防災対策について聞かせてください。
「3月11日以前にも横須賀市ではマニュアルを整備し、資器材も備蓄してきました。欠けていたのは災害に対する切迫感だったと思います。各地域では学校が避難所に指定されていますが、しっかり機能したとは言えない状況でした。今回の経験を踏まえて、マニュアルや避難計画の見直しを進めています」
─津波被害に目が向きがちですが、横須賀市は急傾斜地を多く抱えており、危険度はこちらのほうが高いのではないでしょうか?
「対策は進めていかなければなりませんが、予算の兼ね合いもあって優先順位を設けて進めている状況です」
─計画停電もあり、自然エネルギーの活用などにも関心が高まっています。県は「太陽光発電」の普及を全面的に打ち出しており、一部報道では、メガソーラーの建設候補地に「湘南国際村」の名前も挙がっていました。
「県の取り組みには歩調を合わせて進めていく考えです。メガソーラーについては、誘致したいという考えは持っています。環境に配慮する街のイメージを打ち出せるほか、利用用途のない土地の活用という観点からも有効です」
─シティセールスの成果はいかがでしょう?
「なにもしなければジリ貧だという危機感を持たなければいけない時代です。そうした中で企業誘致が新たに2件((株)ニコン、生化学工業(株))決まったことは、今後の展開の大きな弾みとなる出来事でした。雲を掴むような話ですが、ポートセールスとしてフェリー航路の誘致に宮崎県へと向かいました。燃料の高騰、下りの荷物がないという課題はあるものの、宮崎県民が航路復活を熱望している状況を知りました。まずは民間レベルでの交流を続けながら糸口を探していきます。また定住促進に関しては、もう一歩前進させたいところです」
─シティセールスによる発展。これらは都市の拡大を目指しているものでしょうか。
「昨年4月からスタートしている基本計画では人口減少と高齢化を前提に、行政サービスの設計や都市計画を策定しています。人口動態に応じて街の規模を適正化していく『ダウンサイジング』という考え方です。これはシティセールスとは別の文脈で取り組まなければならない課題です。一方で、人口が減り続けて良いわけがありません。中央地区で進む西友横須賀中央店の再開発や、さいか屋大通り館の建て替えを契機に活性化のための支援策を考えていきたいと思っています」
─マニフェストの中間検証を行った意義と結果についてはいかがですか。
「市長に就任して1年くらい経ったとき、掲げたマニフェストが財源の手当てが難しいなどの理由で、実現できそうにない項目がいくつかあることが分かりました。そのため市民の皆さんに正直にその姿を示しし、説明する必要性を感じました。外部の評価で点数を付けて頂きましたが、皆さん一人ひとりの視点から、修正版のマニフェストに向き合って欲しいと感じています」
─最終検証と市民の評価というのは選挙となるのでしょうか?
「選挙は抜きにして、達成状況をプロセスとともに示す必要性を感じています」
医師・看護師不足解消「いのちの基金」創設
─マニフェストの見直しを発表しましたが、残りのシンボル施策について聞かせてください。
「修正後も取り組みたいものに『いのちの基金』があります。医師・看護師の不足の解消や、安心してお産をできる環境を整える意味なども含めて、市として『命を守る』姿勢を強く打ち出していきたいと思っています」
─就任当初から声高に叫んでいる財政再建に関して、現状と方向性は。
「財政基本計画を横須賀市で初めて定めました。就任した当初、3132億円あった借金を、任期中に3000億円未満に圧縮し、経費を24億円削減、滞納対策で税収を2億円上げて、かつ任期の最終年度で財政調整基金を115億円積み残す。これらの目標数値を定めました。現在はこれに従って予算の査定、事業の計画を立てていますし、市の職員とは問題意識を共有化できています。大切なのは市民への周知と理解です。広報や車座会議で説明していますが、まだまだ浸透していないのが実情です。説明する機会を継続的に提供していく必要性を強く感じています」
─最後に市長の仕事に就いて、どんな時にやりがいや幸せを感じますか?
「今、私は10年後、20年後の横須賀の姿を考えながら仕事をしています。折々に財政が厳しいことを伝えていますが、理解してもらうのはなかなか大変です。一方で、市の置かれている状況を分かった上で『頑張れ』と言って頂ける方も存在します。未来の横須賀を創っていこうという、意識の共有ができているのだと思います。こうした瞬間はうれしいですよね。雇用の場、消費の場、レジャーの場として横浜・川崎は大きな存在です。それでも横須賀が好きだという人が大勢います。この街には能力と可能性がたくさんあります。市民一人ひとりが、できることを実践していく─この意識を共有しながら横須賀の発展に向けて一緒に頑張りましょう」
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