一次選考1位通過の自信
的(まと)の大きさは直径122cm、その中心、10点の円は12・2cm。これを70m離れた場所から狙って矢を射る。速さは、時速200km以上に達する。
人間が狩猟のために弓矢を使い始めたのは数万年、数十万年前とも言われる。弓を引いて矢を放つというシンプルな行為が、的への命中精度を高めることを競うスポーツへと進化したのが、アーチェリーの始まりだ。五輪などの公式戦では、72射の総得点で競う。高度な技術はもちろんだが、集中力・体力、メンタルの強さも求められる。
昨年11月、五輪本番の会場である夢の島公園。株式会社サガミ(衣笠町)の大貫渉さんは、日本代表の第一次選考会に挑んでいた。「いつもの大会とは違う空気感。誰もが背水の陣でここに来ている」。その2週間前の大会で思うような結果を残せなかったこともあり、「始まるまでは不安だった」。そうして臨んだ予選の1日目。ピリピリとした緊張感に包まれる中、出場16人中4位の滑り出し。12人に絞られた2日目は「その場で細微な重心の修正をして、臨機応変に射れた」。結果は1位。かつての五輪メダリストを押しのけ、先頭を切って二次選考に歩を進めた。「次も1位になれる、という自分の可能性を信じている」
親子二人三脚で「世界」へ
「(一次選考会の)2日目は、打ち方を父とケンカしながらだったんです」―。初めて弓矢を手にしたのは、小学5年生。父にくりはま花の国のアーチェリー場へ連れられて来たのがきっかけだ。的に矢が当たることを楽しむ様子を見て、父は独自に指導法を学び、コーチとして彼を後押しした。大会に出場して結果が付いてきたのが、中学3年から高校生の頃。大学では強豪部で研鑽を積み、急成長。学生の世界大会にも出場した。
「世界で戦いたい、五輪を目指したい」と競技と仕事を両立できる場を求め、地元のガス会社に就職。社会人3年目だ。午前中は営業マンとして勤務し、午後は3〜4時間程度、花の国で練習を積む。「仕事があることでメリハリがつく。結果を出すことが、会社への恩返し」。その活躍は目覚ましく、2017年に「ワールドゲームズ」で銅メダルを獲得。18年9月には、世界フィールドアーチェリー選手権で優勝を収めた。
これまで競技に没頭できたのは、やはり父の献身的なサポートがあったから。現在、市内のジュニア育成に携わる父。今では見てもらう時間も減ったが、二人三脚の挑戦も14年目、その集大成となる五輪にあと少しのところまで辿り着いた。
一発勝負、自分との闘い
一次選考で得られたのは、次への切符だけではない。周囲の雰囲気にのまれない心の強さだ。「これまで、大きく体調を崩したことがない」という体力の安定感に加え、試合の現場で修正できる柔軟性も持ち味。「緊張した場面で、どのように筋肉を使えるか」。今は、練習と実戦を重ねながら、自分を引き上げる日々だ。輝かしい戦績があっても、選考は一発勝負。8人から5人に絞られる二次は3月。そして4月の最終で3人が代表に決まる。「高い頂(いただき)ではあるが、挑戦する価値はある」。的=目標は決まっている。あとは、自分がどう攻め、どう打つか―だ。
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