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中区・西区版 公開:2023年10月19日 エリアトップへ

【Web限定記事】平沼高校 「校歌」で伝統つなぐ 卒業生・二宮さんが楽譜を寄贈

教育

公開:2023年10月19日

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感謝状を手に二宮さん(前列右)と小島校長。後列左から、正木裕二さん、川上司副校長、皆藤愼一さん(平沼高校同窓会・真澄会会長)、加藤未知さん、須藤尚紀さん※写真:真澄会HPより
感謝状を手に二宮さん(前列右)と小島校長。後列左から、正木裕二さん、川上司副校長、皆藤愼一さん(平沼高校同窓会・真澄会会長)、加藤未知さん、須藤尚紀さん※写真:真澄会HPより

 横浜平沼高校で10月3日、同校卒業生(75期)の作曲家・二宮玲子さんが新たに編曲した校歌の楽譜贈呈式が行われた。

 同校校歌は、1916(大正5)年に制定。作詞は明治の代表的歌人である佐佐木信綱、作曲は東京音楽学校(現東京芸大)出身で、日本初のクラシック音楽家や幸田露伴の妹としても知られる幸田延。当時戦前から戦後改定を余儀なくさせられた学校校歌が多いなか、平沼高校では歴代の教師によってまもられてきた伝統の校歌だという。

 今回寄贈された楽譜は、オーケストラ用の楽譜がないことを知った二宮さんが「在校生がオーケストラを編成し演奏できるように」と新たに編曲したもの。8月に神奈川公会堂で開催した同期会コンサートの最後の合唱で、お披露目されている。(タウンニュース中区西区版2023年9月7日号掲載「平沼高79期生らが音楽会〜多彩な演奏、再会喜ぶ」https://www.townnews.co.jp/0113/2023/09/07/695696.html)

 贈呈式で二宮さんは「母校の校歌は幸田延という当時、先駆といわれた女性作曲家により作られた貴重なもの。古い世代から新しい世代につないでいけたら素晴らしい財産になる」と説明。また2年後の2025年に同校が125周年を迎えることから「これを機会に卒業生と現役生徒の絆を深め、一緒に演奏できたら」と夢を語っていた。

 小島由美校長は、二宮さんに感謝状を手渡し「校歌というものは、一人ひとりの思い出と一緒に一生残っていくものなので大切に歌いつないでいきたい」と述べていた。

◆変わらない学校のシンボル◆

  8月のコンサートで初めて同校の校歌を聞いた時に、これまで私が母校で歌ってきたり、他校で聞いてきた校歌とは全く違う、厳かな雰囲気を感じました。まず出だしのフレーズが、滝廉太郎の「荒城の月」と似ていたことに驚き、卒業生に聞くと、幸田廷が滝廉太郎の作曲の師であることが判明。平沼高校の音楽教師として35年務めた故・佐藤一夫さんは常々生徒たちに「平沼高校の校歌の方が(荒城の月より)先に作られたのではないかと思う」と話していたそうです。佐藤さんが100周年記念誌に寄せた文章に、歌いつながれてきた校歌の歴史の一端がつづられていましたので、ここでご紹介します。母校の校歌も調べてみると面白い発見があるかもしれませんね。

 

■「創立百周年記念誌」 内学校百年のあゆみ編、旧職員の回想

「終戦直後の学校と校歌の改訂」(佐藤一夫/1947 (昭和22)年〜1982 (昭和57)年在職)※横浜平沼高校同窓会真澄会より転載

 私が神奈川県立第一高等女学校に着任したのは、昭和22年の11月です。その年の4月に東京音楽学校の甲種師範科を卒業させられたのですが、兵役のため実質3年半しか在学せず、師範科とは名ばかりで、専門の音楽以外には、教員に必要な教育学・教科教育法・教育実習等のカリキュラムが無く、ただ教育法?として卒業予定者に作曲家の諸井三郎先生から2時間ばかり抽象的なお話を伺っただけ。それでも立派な教員免許状を頂いて、文部省の辞令でやってきたわけです。校長先生から「あなたは若いから、まず下級生あたりからどうです。」と言われ、先任の田村先生を紹介されました。

 田村先生は当時、絶対音感教育で有名な方でした。本校はドイツ音名を使用していること、合唱を主としていること、音感教育がある程度成功していること等の現場説明を聞き、2年生(今で言うと中学2年)のクラスに連れて行かれました。

利口そうな可愛い女の子たちが目をクリクリさせて待っていました。田村先生が前に立ってちょっと手を振ると突然美しいハーモニーが沸き上がりました。ピアノで音を取らないでさっと美しい合唱になる。驚きました。見事に訓練されている。その時私は、これならやって行ける。要するに教えるのではなく、この子たちと一緒に「音楽をやれば良いのだ」と自信を持ちました。

 さて、当時はアメリカ占領軍の軍政下にあり、音楽科に対しても大変厳しく、従来の教科書や教育図書、文書は破棄。これに背いた学校は校長以下重い処罰を覚悟しなければなりませんでした。GHQの指令に反しない無難の曲だけを集めた最後の国定教科書「中等音楽」1・2・3が発行されたのが昭和22年の7月です。そんな混乱のさなか、教育行政局長のマックマナス中佐が本校の視察に来る事になり、職員は残っていた危なそうな文書を焼いたりして大騒ぎになりました。職員会議で歓迎のアトラクションにコーラスをということになり、簡単に引き受けました。

しかし、得意なレパートリーはドイツの民謡や学生歌が主で、これはとんだヤブヘビだと青くなりました。急遽、ヘンデルのメサイヤの中から2曲選び、女声合唱に編曲してハレルヤを加えて演奏することにしました。

 楽譜作りが大変で、紙のない時代ですから、各科のテスト用紙を廻してもらってプリントしました。練習はあまりできなかったのですが、3年生の小柄な生徒の指揮で全校生徒が英語で見事に歌いました。私はとても嬉しかったのですが、アメリカ軍人たちも大感動で、視察は無事にすみました。皆が帰ってしまったあと、音楽研究室を整理していたら、隅のほうに暗幕に包まれた荷物がある。開いてみると皇国軍歌集とを始めとして、明治時代からの教科書が一山出て来た。コーラスのお陰で助かった!重労働3ヶ月などの刑に処せられるかもしれなかった!

 そんな状況でしたから、

教への道の みことのり

我等が胸の かがみなり

と教育勅語を手本として毎日励む、などという校歌はとんでもない危険物です。

 しばらくして男子生徒が入ってきた25年。校歌の作詞家である佐佐木信綱先生に、民主主義時代に沿うよう歌詞を改訂していただくことになり、国語科の高木東一先生と熱海梅林の近くにある佐佐木邸にお伺いしました。先生は機嫌よく話を聞いてくださり、私達はほっとしました。問題の所は

学びの道に いそしむは

我等が日々の つとめなり

となって堂々と歌えるものでした。

 しばらくして今度は曲が問題になりました。歌いにくい、暗い、スポーツの対抗戦の時など景気が悪い、元気が出ない等々。またベトナム戦争の時代、フォークソング、グループサウンズ全盛の時代となり、校歌は生徒が歌う為のもの、親しみ易く、清新なリズムとメロディーで口ずさめるものと要望が強くなって、新設高校のこのような校歌がマスコミをにぎわすようになりました。そこで再度「校歌を考える委員会」で検討。そして結論は現校歌を維持。

 作曲の幸田延女史は東京音楽学校の教授で明治18年に16歳の若さでウィーンに留学し、日本人で初めて西洋、音楽を究め、身に付けた人物。滝廉太郎をはじめ、初期の作曲家は皆、この先生の弟子である。しかし作品は器楽曲に限られ、唯一の歌曲の、この校歌はまさに音楽史上の文化財と言えるものです。短い32小節の曲の中で6回も転調しています。

幸田女子は多感な少女時代に、ウィーンのロマン主義、19世紀末文化をいっぱいに浴びてブラームス・マーラー・シュトラウス・シェーンベルク、美術ではクリムト・エンゴシーレなどの活躍をまのあたりにしています。

 この校歌の短い中に殆どデカダンスとも言える多数の技法を駆使して、しかも気品を失わず、形式(フォルム)を崩さず、見事に小宇宙を構築していることに驚かされます。

国家・団歌・校歌などは、面白いとか、楽しいと言うよりも先ず象徴なのです。シンボルですから、河・海・山・野・歴史等を歌い、何かを讃えると言う月並みなものが長持ちします。シンボルなら第一級の作家による、文化財的な作品が良いでしょう。平沼高校校歌は、校舎が変わり、人も変わっていく学校の歴史の中で、唯一伝統を保持していくシンボルなのです。

校歌について説明する二宮さん
校歌について説明する二宮さん
寄贈された楽譜
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