神奈川県全域・東京多摩地域の地域情報紙

  • search
  • LINE
  • MailBan
  • X
  • Facebook
  • RSS

農民文学に生きる 厚木初の名誉市民 和田傳

文化

公開:2019年1月1日

  • X
  • LINE
  • hatena

 「厚木にこの人在り――」。作家・和田傳。厚木市初の名誉市民であり、その名を冠にした「和田傳文学賞」は33回を数える。厚木を隅から隅まで知り尽くした文化人・飯田孝さんの著書からその人柄を紹介する。

 和田君のやうに農村に生れ、農村に身を置き、親しく農事に携はり、農人に伍して、その生活を生活しつゝ、しかも相模平野の中に数百年その伝承を経験してゐる人にとってこそ、農民文芸なるものは文字通り身についたものでなければならぬ。



 昭和11年出版、和田傳の第一短編小説集『平野の人々』の序文である。『日本近代文学大事典』によれば、大正9年に早稲田大学文学部に入った和田傳は、仏文科を創設した初期農民文芸作家、吉江喬松(孤雁)を慕って入学したという。『平野の人々』の巻頭にある長文の序文は、昭和15年に没するまで20年間にわたって和田傳が師事した吉江喬松が記した。

 和田傳は、明治33年(1900)1月17日、和田又三郎の長男として愛甲郡南毛利村恩名(厚木)に生まれた。本名は「つとう」であるが、一般には「でん」の名で知られている。

 大正7年、厚木中学校(現県立厚木高等学校)を卒業。早稲田大学高等予科に入学するが、この時の同級生には横光利一や新劇俳優の友田恭助、詩人の吉田一穂らがいた。

 『和田傳 生涯と文学』の「わが人生」には、「大学に進んだら仏文科に入るつもりでフランス語の勉強をはじめたのは予科2年になった春で、大正8年(1919)であった。来年は吉江喬松先生がフランスから帰られ仏文科が創設されることになっていたのである」と記されている。希望通り早稲田大学仏文科第1期生となった和田傳は、吉江喬松の薫陶をうけて、生涯をかけた農民文学作家としての道を選ぶことになるのである。

 「わが人生」には、吉江喬松から教えられて、パリの裏道や近郊農村に住む貧しい人々がおりなす世界を描いた、シャルル・ルイ・フィリップの作品をむさぼるように読んで、「私はかつてない感激に浸った。幾世期の闇の底に押さえつけられていた人々のおのずからなる声がここにはじめて発した。この声の中にこそ新しい文学の源流があろうと先生は常に言われていた」と述べられている。

 大正12年早稲田大学を卒業、フランス文学などの翻訳にたずさわるかたわら、老農夫の悲劇を描いた処女作「山の奥へ」を『早稲田文学』に発表、作家としての第一歩をふみ出す。

 翌大正13年4月、吉江喬松・石川三四郎・中村星湖らの農民文芸研究会に参加、大正14年には厚木中学初代校長であり、恩師でもある大屋八十八郎の長女美津子を妻に迎える。

 大正13年以降、「徒労」「峠」など数多くの作品を次々に発表するが、これらの中から世評の高かった「村の次男」「一町三反」「急曲線」「村の席次」「深い墓」「新しい血」「屋敷」「最後の墓」の8編を1冊にまとめて、砂子屋書房から出版したのが『平野の人々』であった。そして『平野の人々』出版の翌昭和12年に発表された第一長編小説『沃土』が昭和13年に第1回新潮社文芸賞を受賞することによって、農民文学作家としての地位を固める。

(中略)

 第二次世界大戦後は、昭和33年に映画化された『鰯雲』をはじめ、数多くの作品を残して、昭和60年(1985)10月12日、85歳の生涯を閉じた。神奈川文化賞、厚木市民文化彰を受賞し、厚木市名誉市民の称号を受けた和田傳の足跡は、昭和53年に刊行された『和田傳全集』10巻に収められている。それは文字通り土から生まれた土の文学であった。昭和57年5月に建立された「和田傳文学碑」には、『風の道』巻末を連想させる次の一文が刻まれている。

 風に唄う峠路に蝸牛はひとり白雲と語る 尾根みちはのぼりくだりほそぼそと果てなくつづくが つねに風のなかで 人もひとり行くしかない道である

 『相模人国記 厚木・愛甲の歴史を彩った百人』(飯田孝著)(有限会社市民かわら版社刊・発行人/山本陽輝)より。同著は厚木中央図書館に収蔵されている。肖像写真提供/厚木市

厚木・愛川・清川版のローカルニュース最新6

中央公園で緑のまつり

5月11・12日 

中央公園で緑のまつり

5月4日

町建設業協会が50万

町建設業協会が50万

能登半島地震災害義援金

5月3日

精細な鉛筆画展

鳶尾

精細な鉛筆画展

もりや亭

5月3日

みんなの本棚誕生

みんなの本棚誕生

厚木市船子のマンション

5月3日

広げよう支援の輪

中学生の議員を募集

中学生の議員を募集

子ども議会に向けて

5月3日

意見広告・議会報告政治の村

あっとほーむデスク

  • 5月3日0:00更新

  • 4月26日0:00更新

  • 4月19日0:00更新

厚木・愛川・清川版のあっとほーむデスク一覧へ

バックナンバー最新号:2024年5月4日号

もっと見る

閉じる

お問い合わせ

外部リンク

Twitter

Facebook