淡い光が織り成す幻想的な世界―。葉山町に一風変わった素材を使ったアートの創作に取り組んでいる夫婦がいる。長柄在住の谷吉重雄さん(87)と幸子さん(78)が生み出すのは、ひょうたんを灯篭に見立てた、その名も「ひょうたんランプ」。
自宅の離れにある一室。外光が遮断された6帖ほどの部屋には、大小様々な形のひょうたんがずらりと並ぶ。表面にほどこされた細やかな文様は美しく、明かりを灯すと小さな穴から温かみある光の粒がこぼれる。「この瞬間が一番楽しみなんですよ」と重雄さんは目を細める。
壁に目を向ければ鳥の足跡のような無数の影が浮かび、「電球のフィラメントが映し出されているんです。これも魅力のひとつ」
これまで手掛けてきた作品は実に300以上。その独創的な作風にファンも多く、譲ってほしいと頼まれ、”嫁入り”していった作品もいくつもある。
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きっかけは17年前。近所で開催されていた明かりの作品展に足を運んだところ、幸子さんが会場の隅に置かれていたひょうたんに目を留めたのが始まり。「これで明かりを作ったらきっと綺麗だと思って。ひょうたんをランプにと考えたのは私が初めてじゃないかしら」と振り返る。
作るのはもっぱら重雄さんで、文様のデザインや作品に色を付けたり、皮を貼り付けるなどのアイデアを幸子さんが出す。
「70歳になるまで絵の一枚も描いたことがなかった」とアートとは無縁の人生を送ってきたという重雄さんだが、その仕事は巧みで細やか。実を水につけ、種を抜いて乾燥させてから表面を磨き上げる。そこに下絵の描いた和紙をのせ、縫い針や目打ちで一つひとつ穴を空けていく。大きいものでは完成まで2〜3週間はかかる、気が遠くなるような作業が続くが、「必要なのは根気だけ」と重雄さんは笑う。
デザインも処女作のエッフェル塔に始まり、中近東を思わせるものや唐草、星、幾何学模様など実に多彩。今では芸術に造詣のある幸子さんが所有するミロやシャガールの画集から着想を得たり、またある時は菓子袋の模様からイメージを膨らませたり。ひとたび作り始めれば寝食を忘れて没頭する創作意欲も芸術家さながらで、「人間、いつ花開くか分からないものですね」と幸子さんは温かな視線を重雄さんに向ける。
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来年米寿を迎える重雄さん。2年前に一度大病を患ったもののすでに完治し、今では医者いらず。幸子さんもひょうたんの会や習い事に精を出したりと健康そのものだ。日々の活力の源を問うと「好きな時に、好きなことをやっていることかな」と声を揃える。
結婚して今年56年目。夫婦仲の秘訣は「相手への敬意を忘れないこと」。「お互いに足りないところを支え合うわけですからね。どこかで相手のことを尊敬していないと。私の場合、これ(ひょうたんランプ)を始めてから主人を見直しました」と幸子さん。重雄さんは「まぁ、楽しくてやっていることだから」と少し照れくさそうに笑った。
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今年は3年ぶりに「葉山芸術祭」に出展。同展用に新作も作り上げた。期間中は離れを開放し、これまで手掛けてきた作品を一堂に展示する。「幻想的な光と影を演出するひょうたんランプ。『光のマジック』を見に、お気軽に足を運んで」と谷吉夫妻。
展示は5月10日(日)まで。開場は午前11時から午後5時。入場無料。場所は長柄交差点を御用邸方面に向かい、コンビニの向かいの路地を入って約200m(グループホーム「びゃくしんの苑」の先)。
問合せは谷吉さん【電話】046・876・0765
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