湘南くじら館で写真展「江ノ電と暮らす街 片瀬・腰越」を開催している 山口 大助さん 片瀬在住 44歳
暮らしの息遣い感じて
○…わずか10Kmのローカル線でありながら、鉄道愛好家や写真家を惹きつけてやまない江ノ島電鉄。海や富士山、風光明媚な風景と車体を撮るのもいい。でも、江ノ電には沿線に息づく人々の暮らしがある。木登りする子ども、線路を渡る親子、洗濯物が干された古民家。そんな何気ない風景との共演こそが撮影に駆り立てられる瞬間だ。
○…「たまたま助かっただけ」。印刷機メーカーに勤め茨城県に赴任していたとき、東日本大震災を経験した。家族や自宅に被害こそなかったが、道を挟んだ先はすさまじい揺れとともに建物が沈んだり傾く光景に目を疑った。同時にこうも思った。「当たり前にあり続けるものなんてない。撮るべきなのはもっと身近なものなんじゃないか」。脳裏に浮かんだのは、生まれ育った片瀬と腰越の街並みだった。
○…10年ほど前、故郷に移住し、家業の傍ら時間を見つけては毎日のように愛用のニコンを担いで撮影に出かける。祭りの日、雪の日、シャッターシーンを逃すまいと”出動準備”は欠かさない。生活者が被写体だけに、心掛けるのは「自分を空気にすること」。だが、最近は出没頻度の多さから声をかけられることも。「存在感を消さなきゃいけないのに顔を覚えられちゃって」と苦笑いしながら頭をかく。
○…「江ノ電は好き?」。記者の質問に小学生の愛息が笑顔で応える。撮影の同行者であり、趣味の登山にもついてきてくれる良き理解者だ。親子の会話も自然と鉄道が中心に弾む。「話を聞いてくれる数少ない相手」と「相棒」に敬意を送りつつ「いつまで付き合ってくれるか」と父の心情がのぞく。江ノ電は幼少からいつも心の中にあった。地元ならではの風景を、これからも撮り続けていくつもりだ。
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