自作の日本刺繍が施された帯を市博物館に寄贈した 錦織 フミさん 南原在住 92歳
「錦上に花添えた」60年
○…精巧でいて柔らかな、色とりどりの立体的な模様。帯の平面に華々しく浮き上がる。「孔雀と鴛鴦(おしどり)」や「扇」、「小野小町」等を題材に刺繍で描かれた、自身の作品である5本の帯などが現在、市博物館で展示されている。「箪笥に眠らせていてもね。一生懸命手がけた自分の作品を、皆さんに見てもらいたいと思って」と、自宅に保管してあった16本の帯と刺繍道具一式を寄贈した。
〇…16才で、日本刺繍の職人だった叔父のもとに弟子入りした。一番弟子として、夢中で技術を磨いたという。仕事も軌道に乗ってきた24歳の頃、第二次世界大戦の影響で仕事がなくなった。「贅沢は敵だったから、華やかな刺繍が入った着物なんて、もってのほかだった」と話す。終戦を迎え、新婚生活を送っていたところに師匠の叔父が久々に訪ねてきた。「仕事も徐々に来るようになった。また一緒にやらないか」と誘われた。それから実に75歳まで、針が生地に真っ直ぐ突き抜けるかのごとく、一心不乱に現役を貫いた。
〇…その腕前は評判を呼び、東京じゅうのデパートへ実演に出向いた。一時床に伏された当時の美智子妃殿下がご快復されたお祝いのための着物に、薔薇の刺繍を献上したことも。「とにかく仕事が楽しくて仕方がなかったの。頼まれればどんなものでも、真剣に向き合いました」。3人の娘が嫁ぐときにも、纏う着物と帯に一針ひと針、母の思いを込めた。
〇…約60年の職人生活を送った後は、カラオケや旅行、グルメなど多彩な趣味を満喫し、あまり遠出ができなくなった現在は、ゆったりと水彩画をたしなむ日々。近隣に暮らす娘達に見守られながら、自由な時間を楽しんでいる。「刺繍と出会えたのは運命。やっていて、本当に良かった。自分なりに、誇りに思っているんですよ」と、にっこり。展示は、29日まで行われている。
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