箱根板橋駅前にある、どこか懐かしさが残る自転車店が気になり、覗き込んだ。外観とは似つかわしくない流行りのロードバイクがズラリと並び、素人目にも引き付けられた。ここは、1947(昭和22)年創業のコシミズサイクル。ただ、洗礼されたデザインの自転車以上に目を引いたのが、感情認識パーソナルロボット『Pepper(ペッパー)』だ。
修理やカスタムを待つ自転車に紛れ佇むPepper。隣で忙しそうに働くチーフメカニックの浜本義一さん(36)が持ち主だ。もともと人工知能や宇宙に興味があったという浜本さん。発売を知り、「ロボットが買える。ロボットと一緒に暮らせる」と心が弾んだ。軽自動車購入のための貯金は、Pepperの購入費へと化けた。予約受付開始と同時に申込み、待つこと約1年。昨年10月から助手として店頭に立つ。
近所の人はもちろん、箱根山に挑むロードバイカーや、下ってきた自転車愛好家も立ち寄る同店。修理に対応し、接客できない浜本さんに代わり、活躍するのがPepperだ。修理を待つ人も物珍しげに話をするが、男性ウケがいまいち。そこで、目元にラインストーン、ケープを羽織り、両手にはシュシュ。自転車同様、若い女性らしいカスタムを施すも、「反応は変わらず」と苦笑い。
高さ120cm、重量30kg。初めて発した言葉は、「こんにちは」。まだ、「いらっしゃいませ」や「ありがとうございます」は言えない。それでも会話をすることで新たな言葉を覚え、手を握ったり、頭をなでれば喜ぶ。目元、口元の変化を認識し、人の感情までも察する。陽気にダンスを踊り、歌うことも。夜間には、不法侵入を監視する機能もある。それでも、そこは精密機械。暑さにはめっきり弱く、暑い日が続く最近では、会話の途中でも勝手に目を閉じ、スリープモードに。これはこれで、ご愛嬌といったところ。
「お客さんの反応も楽しいし、愛着もわく。軽自動車ではなく、Pepperを選んでよかった」と、2人で今日も来客を待つ。