早朝からウエットスーツを身にまとい、江之浦の海へ入るダイバーたち。11月13日、江之浦漁港でダイバーに感謝を伝えるイベントが開催された。20年以上続くこのイベント。今年は身体に障害を持つダイバーも参加する「バリアフリーダイビングフェスティバル」として催された。
イベントは、江之浦でダイビングショップを経営する野瀬勝利さん(45)の父・秀利さん(65)の時代から続いている。今年は神奈川県が海の魅力を発信するプロジェクト「フィールショウナン」の一環として、障害者や高齢者にもダイビングを楽しんでもらおうと実行委員会を立ち上げ、海業センター(漁協)、江之浦自治会の協力で「バリアフリーダイビングフェスティバル」として開催された。この日は一般のダイバー約200人の他、障害を持つ8人のダイバーが参加、ダイビングを楽しんだ。
酸素ボンベなど、機材をすべて背負うと15〜20kgにもなるダイビング。野瀬さんは自身のショップで、砂浜でも使える車いすや、機材を海岸まで運ぶためのリヤカーを購入、常時用意している。「障害者や高齢者にとっては、機材を運ぶだけでも大変。江之浦は駐車場の目の前が海なので、体験しやすい」(野瀬さん)。さらにこの日は他のショップなどから、障害者ダイバーをサポートするためのボランティアも応援に駆け付けた。
横のつながり・継続重要
今回参加した障害者たちは、元東海大学体育学部の非常勤講師を務めていた近藤勝三郎さん(71)が指導する障害者のためのダイビングクラブ「東海ドリーマー」の会員。近藤さんは30年ほど前から障害者のためにダイビングを教えており、月に1度、東海大のプールで練習を重ね、年に1度は沖縄やセブ島へ「遠征」に出る。遠征の前に腕試しで潜るのが江之浦だ。
鎌倉から参加の村山京子さん(51)は、交通事故がきっかけで、今でも手と足に麻痺が残る。10年前、障害者でもできるダイビングの募集を見て始めた。「地上ではできない体験。魚と一緒に泳げるので、全然疲れない」と笑顔が弾けた。大田区から参加した柳川伸二さん(60)は24歳の時に脊髄にウイルスが入り、ギランバレー症候群を患い、胸から下が動かない。ダイビング歴は20年。これまでに潜った本数は80本に上る。透明度が高いセブ島は水底も深く「空を飛んでいる様だった」と話す。麻痺が残る身体でもフィットすれば重たい機材も負担に感じないという。
「今回は小田原や箱根の消防にも協力してもらった。イベントを通して横のつながりができ、安心して潜れる江之浦になれば」と野瀬さんは話す。同様のフェスは来年以降も継続したい考えだ。
バリアフリーな海・江之浦の発信は始まったばかりだ。