年頭にあたり小田原箱根商工会議所の鈴木悌介会頭に、地域の経済状況や新年の抱負を語ってもらった。
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――いよいよ、久野のJT跡地の開発計画が具体的に動き出しました。
「昨年8月に、事業者のイオンタウン(株)大門淳代表取締役同席のもと事業計画を発表しました。従来は大きなショッピングセンターの出店により地元商店が顧客を奪われ、地域の商業が疲弊し、結局まちが衰退してしまいショッピングセンターも撤退という事例はたくさん有ります。そんなことは有ってはいけない。
イオンさんが来る。その力を地元で生かすという発想でイオン、市、県、商工会議所の4者研究会で2年間かけて基本構想・計画『いのち輝くまちづくり構想』をまとめました。現在はその研究会メンバーに商店街連合会や医師会、商工会議所内のエネルギーや防災の委員会も加わっていただき懇談会を隔月で開催しています。イオンさんから事業の進捗の報告を受け、地元の意見を伝えています。
商業施設の役割は大きく変わっています。ネットが普及しお金と商品の交換は店でなくとも簡単にできるようになりました。しかもお客さんは高齢化してきますので、たくさん商品を持って帰ることも難しくなってきます。当然イオンさんも分かっていて、いかに新しいマーケットをつくるかを検討されています。久野の施設のコンセプトは『小田原ウェルネス・リビング』で健康にフォーカスを当てています。具体的な計画が示されるのはこれからですが、従来の郊外型ショッピングセンターとは相当変わった中身になると思います」
――開業による、市内の既存商店への影響はどうお考えですか。
「ゼロではないかもしれませんが、可能な限り競合しないかたちでイオンさんに考えてもらっています。むしろ『イオンができて、小田原って面白い、住みやすいまちだね』と評判になり小田原の定住人口が増えれば、当然、地元商店を利用する人も増えるはずです。『反対』というだけではまちは縮小していきます。小田原・箱根地域全体が消費者にとって魅力的な場所であることが重要です。日本全体で人口が減少して地域間競争も進むなか、そういう広い視点が大事だと思います」
企業を選別する新たな指標
――2018年の経済の見通しをお聞かせください。
「大きな流れでは、3年前に国連が設定した『SDGs』という指針があり、注目しています。『持続的な開発目標』と訳されるもので、国際社会が貧困解消や持続可能な社会の実現のために設定した17項目の目標です。
ひと昔前は環境や福祉と、経済は対立するものでした。この相反するものがこれからは一体化していく。環境や地域社会などに気を配る、貢献していかないと企業経営が成り立たなくなる時代が来るということです。例を挙げると『年金積立金管理運用独立法人(GPIF)』という年金資金を運用している会社があります。そこが1兆円の投資先企業の価値を図る材料として、環境、社会、ガバナンスへの取り組みの指数を重視すると決めました。これはトレンドになると思います。つまりSDGsに真面目に取り組まない会社にはお金が集まらないということです。売り上げや利益だけでない新たな指標で企業が選別されることになる。5年後、10年後には必ずそうなる。そういう時代の兆しが少しずつ顕在化していく1年になると思います」
エネルギーの地産地消
――今年の商工会議所の事業計画は、いかがでしょうか。
「当会議所の基本的なテーマは『地域でお金を回す』です。規模を拡大すれば売り上げが伸びるという時代ではない中で、有効な経済活性化策が地域でお金を回すことです。
その一つとして、今年は『エネルギーの地産地消』を打ち出そうと思っています。小田原市環境部に聞くと、小田原市全体では電気料金として毎年300億円を支払っているとのことです。それは、ほぼ市外の大手電力会社に支払われていますし、その先では、化石燃料の輸入代金として、中近東をはじめ海外に流出しています。その金額は毎年28兆円にのぼります。その1割だけでも地域で作ったエネルギーを使えば、小田原なら毎年30億円というお金が地元に循環することになります。それだけのお金があれば雇用や福祉、教育、介護、インフラ整備など地域の課題を解消する目的にも使えることになります。
エネルギーというと、”反原発”などのイデオロギーの問題ととらえられがちですが、そうではなく経済の観点からも一番合理的です。まずはその仕組み、考え方への皆さんの理解が必要なので、会議所としても啓発や周知を進めていきたいと思います。
指標では地域の経済状況は良くなっている。その中で、少し先を見てするべき投資はする。製造業は自動化やAIの活用などを、身の丈に応じて果敢にチャレンジしていくべきではないでしょうか。国の施策や金融機関のサポートを活用して、商工会議所としてもAIやIoTについて情報提供を含めて支援していきたい。ほかにも健康経営、働き方改革といった、中小企業が新たに取り組むべきテーマについても講演や勉強会を実施していきたいと思います」
――ありがとうございました。 (了)