茶や和紙を中心に商いを続ける「小田原 江嶋」(小田原市栄町)が今年創業360年を迎えた。代々の当主は「平八」を名乗り、看板を守り続けてきた。17代である江島賢さん(55)にその歩みを聞いた。
寛文元(1661)年に、初代江嶋権兵衛が小田原で製塩業を始めたのを起源とし、江戸時代中頃には和紙の取り扱いを開始。紙の行商で遠江(静岡)から茶を持ち帰ったのが、現在の主力である茶取り扱いのきっかけになった。賢さんは、店に残された資料などから歴史を紐解く中で「2人の『平八』の存在を知った」という。
まず一人目が13代。幕末から明治の変動期、ずさんな商売が仇となり店は傾きかけていた。商売の才覚を見込まれ当主についた13代が小田原出身の二宮尊徳の教え「道徳と経済の融和」を経営理念とし、出納を明確化した「店勘定帳」を導入。経営を立て直し「中興の祖」として名を残した。
もう一人が15代。大正12(1923)年の関東大震災で焼失した店を全国から建築資材を集め、わずか5年で再建させた。軒先に梁が突き出る小田原の「出桁(だしげた)造り」を特徴とする店舗は現在まで受け継がれている。また、震災復興として県西で生産が始まった「足柄茶」の立ち上げにも尽力したと伝えられている。
2006年に17代を継いだ賢さんは、歴代の当主に敬意を込め、創業360年の記念茶「平八-hei hachi-」を企画。「自分はまだ平八の名を継いではいないが、お茶を味わいながら当店の歴史を知って頂ければ」と思いを込める。東日本大震災やコロナ禍など厳しい時代の中でも、デザインの一新や海外展開など挑戦は始まっている。「360年を一周し円となった。次の円を繋ぐために走り続けたい」