5月16日に開催されたJリーグYBCルヴァン杯のグループステージ第6節。今季湘南ベルマーレに加入した小田原市出身の鈴木国友選手(22)は前半37分、V・ファーレン長崎の守備陣の背後へスルリと抜け出し、ゴールキーパーと1対1の好機を冷静に決めてプロ初ゴールを記録した。
監督やチームメイトからもみくちゃにされ、オーロラビジョンに大きく映し出されたうれしそうな笑顔。「あんな表情は見たことがない」。かつての教え子をスタンドから見守った相洋高校の今井こずえ教諭(55)の頬に、一筋の涙が伝った。
座席はいつも窓側の最後部
担任として2年間受け持った鈴木選手の印象は「運動神経抜群」。サッカー部では50m5秒台の俊足フォワードとして、神奈川県U―18サッカーリーグ1部で優勝するなど活躍していた。
一方で勉強は苦手。今井教諭が教える国語の成績も、「それはまあ、ひどかった…」。終業のチャイムが鳴ると同時に掃除当番をサボって教室を飛び出し、水を得た魚のようにイキイキとして校庭でボールを蹴り始める。「国友!戻ってきなさい」と、教室のベランダから大声で呼び戻すのが日常茶飯事だった。
強運の持ち主としても記憶に残る。定期テストが終わるごとにくじ引きで行う席替えでのこと。鈴木選手は、「俺はあそこがいい」と希望する窓側の最後部の座席を引き当てるのだ。「教室の後方ににぎやかな生徒が固まらないように願うのですが、どういうわけか国友はいつも同じ席。もっていましたね」
クラスの人気者プロで羽ばたけ
手のかかったやんちゃな教え子が、国内サッカーリーグの最高峰に上りつめた。「高校時代から夢はJリーガーと話していたけれど、それを叶えたのはすごい」
級友らが鈴木選手の誕生日を祝おうと、教室でクラッカーを鳴らしたことがあった。他学年はテスト中。注意しようと教室へ向かうと、「企画したのは私たち。クニ(鈴木選手)を叱らないで」と懇願されたことを思い出す。「皆の人気者だった。プロでも地元に愛される選手になってほしい」
徐々に出場機会を増やしつつある鈴木選手を応援しようと、同僚らの協力を得て作製したグッズを身につけて観戦に行くことがうれしい。定年退職まであと5年。「先生の老後の楽しみのために頑張ってやるよと国友が言ってくれるんです」