タウン童話 『山田さんちのけやきの木【3】』 絵・文 バタバタばーば(斎藤分町在住)
僕はお友達でもあるし、前から僕からも言いたかったので「引き受けた、絶対(ぜったい)言うよ」と約束(やくそく)した。すると「これで、一つ目をクリアすることができる」と大喜び。「君はこの三つをクリアしてお城の黒板になんて書きたいの」と聞いてみた。「雲に乗(の)れる免許(めんきょ)が欲しいんだ、雲(くも)に乗って上の世界を全部見たいの」と言った。すごいな、どうやらその黒板は何でもかなえることができるらしい。
するとどこかで「カネくんごはんよ」という声が聴こえた。お母さんの声だ。あ、いけないもうじきお昼ご飯(はん)の時間だ。さっきの階段を大急ぎでかけ登り、受け付けの女の人に「帰りたいのですが」というと「ここから出たらすぐに飲んで下さい」と今度は緑色のジュースのビンを手渡(てわた)して言った。僕はそれを山田さんちの庭の出口で飲んだ。家に帰ると、お昼ご飯でみんなが食堂(しょくどう)に集まっていた。僕は今あったことを妹やお父さんやお母さんに話した。するとみんな大笑い。「あら、夢見てたのね」とお母さん。「しっかりしろよ」とお父さん。「お兄ちゃんだいじょうぶ」と妹までも。誰も信じてくれなかった。僕はご飯が終ってすぐ、もう一度山田さんちに行ってみた。あの大木はちゃんとあった。あの大きな穴もあった。穴に首をつっこんで「オーイ」と大きな声で呼(よ)んでみたけれど、誰も答えてはくれなかった。
それから僕は本当に夢だったのかもしれないと思って、その事をだんだん忘れかけていた。でもある日、山田さんの家の前を通ると、その木にチェーンが巻(ま)いてあって電気(でんき)ノコギリで「キーン」と音をたてて切り倒しているのを見てしまった。
「あ、どうしよう、あの国の人達はどうするだろう、大変だ、大変だ」と大きな声で言ってみても、誰にも伝わらない。山田さんは、ここにアパートを建(た)てるために邪魔(じゃま)な大木を切り倒すことになり、大勢(おおぜい)の職人さんが作業をしていたのだ。
僕はすっかり元気をなくしてしまった。あの国の人達に申(もう)し訳(わけ)なくて。また大きな木が一本なくなってしまうことも申し訳ないし、第一あの国の人達の出入口がなくなってしまうではないか。何にもできない自分が悔(くや)しくて、情(なさ)けなくて何をする気にもなれなくなってしまった。あの日子どもの国から帰ってすぐ、ゆりちゃんの家に行って金魚のお願いをしてきたのに、ゆりちゃんがすっかり反省(はんせい)してこれからは絶対に大事にすると言ってくれたのに。お母さんは、「何かあったの、お腹の具合(ぐあい)でも悪(わる)いの」と心配してくれるけれど、いくら言っても信じて貰(もら)えない話なので、ますます落ち込んでいた。
それから又春を迎え、次ぎの年の夏休みに入る頃お母さんが「カネくんお手紙よ」と言って薄(うす)い緑色の可愛らしい封筒(ふうとう)を渡してくれた。「誰からかしら差出人の名前がないのよ」と言った。開けてみるとなんとそれはあの小さい子からの手紙だった。
―あの時は、ゆりちゃんのことでご協力いただいてありがとうございました。あれから他の二つもクリアしてお城の黒板にお願いを書くことができるようになりました。それに念願(ねんがん)の雲に乗る免許証(めんきょしょう)も取れて今日は、北海道(ほっかいどう)の上空(じょうくう)を旅して帰ってきた所です。ご心配くださった出入口については次ぎが見つかりましたのでご安心ください。緑区(みどりく)にある公園の楠(くすのき)の根元に決めました。そこは公園なので、しばらくは安心だと思います―
という手紙だった。
よかった。緑区の公園がどこだか分からないけれど、何かのおりには楠をさがしてみようと思っている。探し当てて、もう一度あの子どもの国に行ってみたいな。
(おしまい)
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