白色ミヤコタナゴの人工繁殖を国内で初めて成功させた県立観音崎自然博物館の館長 石鍋壽寛(としひろ)さん 鴨居在住 57歳
未来に繋ぐ命のバトン
○…観音崎自然博物館の入口では国の天然記念物であるミヤコタナゴの群れが来館者を出迎えてくれる。現在の飼育は数万尾を超え、元気に泳ぐ姿が見物だが、これらは懸命な人工繁殖研究によって命のバトンを繋がれて存在している。タナゴを見つめると、絶滅に追いやるのも、守るのも人間の心一つであることが分かる。だからこそ人と自然が共存できる風土を作りたいと意欲を燃やす。
○…生まれは東京下町。少年時代、父と行った近所の小川で捕まえた1尾のタナゴとの運命の出会いが衝撃だった。紫やオレンジの婚姻色の美しい姿形に心を掴まれ、もうすぐ半世紀。少しでも生息地の近くにと所縁もない土地の大学を選び、大手企業の就職内定を蹴って研究者の道を進んだ。「ここまで綺麗な魚はいない」と笑う。しかし、その周囲の反応は至って冷静。10人兄弟の長男だが「良さは身内には伝わらない」と残念そうに眉尻を下げた。
○…豊かな森と海に囲まれエコミュージアムとしての存在意義を持つ同博物館。「リアルな自然と生態」をテーマに据え、ありがちな標本展示に偏らず、生きたままの動植物展示を見て・聞いて・触って・香りで学ぶ手法を採る。秋には「鳴く虫展」と題し、20種以上の昆虫を一堂に集めたユニークな展示を開いた。図鑑や伝聞にはない生きた情報の発信がそこにある。
○…自然は「郷土の宝だ」と話し、ミヤコタナゴを始め絶滅が危惧される生態系の復元や動植物の生息地保全に力を注ぐ。海岸植物のイソギクも継続的な繁殖活動が功を奏し、今では観音崎公園内に群落ができるまで回復している。何も展示するだけが博物館ではない。時にはフィールドが教科書となる。そう信じるのは記憶の中に生きる在りし日の小川が今でも自然の素晴らしさを問いかけ、己に教えてくれているから。そんな存在を少しでも後世に残したい。強い想いが根底にはある。
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