連載 かねさわ地名抄 第9回「並木」 文・NPO法人 横濱金澤シティガイド協会
富岡八幡宮の裏手、国道16号線沿いに、「宮の前」という交差点とバス停があります。
もともとは、八幡宮の前、つまり、参道の下から慶珊寺のあたりがそう呼ばれていました。かつて、何艘もの船が並ぶ砂浜があり、その前には、数多くの魚や貝が獲れる豊かな海が広がっていました。
その中でも、「並木の瀬」と呼ばれるところは、最良の漁場でした。そこは、14世紀初頭に海中に没した長浜千軒という漁師村で、松並木のあったところと語り伝えられてきました。
明治になると、海浜の景勝と温暖な気候に魅かれ、伊藤博文らの元勲や関内・山手の外国人が逗留(とうりゅう)するようになります。そんな中、ヘボン博士の推奨により、日本で最初の海水浴場がこの浜に設けられました。やがて、立派な料理旅館も建てられ、活魚料理で大変な評判を博しました。
大正には海苔の養殖が始められ、良質との声価を得て、昭和30年代には金沢の主要産業となりました。
しかしその豊かな海は、1971(昭和46)年から埋め立てられて、「並木」「幸浦」「福浦」という三つの町になりました。
「並木」は、好漁場であった「並木の瀬」のあったところからそう名付けられました。「宮の前」も「並木」も、海の記憶を伝える地名なのです。