三崎港そばで、1989年から毎週日曜に開かれる「三崎朝市」。午前5時から8時30分まで、マグロや野菜など各店自慢の新鮮な商品がずらりと並ぶ。地魚料理店「くろば亭」も魚の切り身を味付けして販売する「漬屋」の名で出店する。「いらっしゃい」。夜明け前の薄暗い会場で、ベテランに交じって響く威勢の良い挨拶が客の心を照らす。声の主は山田果澄さん(21)さん。ここで彼女は店長を務める。
帝京平成大学3年生の果澄さん。約2時間かけて都内にあるキャンパスに通い、観光やSDGsを取り入れた経営を学んでいる。ゼミのテーマは朝市。「出店数の減少、価格高騰、経営難…」。ノートには、普段目の当たりにする課題がぎっしりと書き込まれている。
こうした現状を打開しようと昨年、英国へ留学。「市場に行くと、出店者とお客さんとの距離が近くて若者もたくさんいた。皆活気があり、私が描く三崎の理想像だった」と感想を述べる。
幼い頃から祖父の芳央さんが、朝市の販売で客と交流する姿を見て育った。その後、父の拓哉さんに代わり、今度は自身にバトンが回ってきた。しかし、コロナ禍で休業した時期もあった。今は観光客が戻りつつあるものの、高齢化に伴って以前と比べて地元客は減少傾向。それでも「私で途絶えさせる訳にはいかない」と揺るぎない想いを胸に朝市にやって来る。
「焼き目が付いてからレンジでチン。脂が乗っていて焦げやすいから」「バターで味変できる」「唐揚げもおすすめ」。ただ袋に詰めて売るのではなく、ちょっとしたアドバイスを付け加える。「最初は全く売れなかった」と言うが、こうした気遣いがファンの心を捉える。朝市では、小さな親切や他愛のないコミュニケーションが人々の生きるエネルギーになる。3代にわたって受け継がれてきた等身大の姿だ。
ようやく朝日が現れて月と同居する頃、魚市場に水揚げされた生物の中から、観音崎自然博物館学芸部長の山田和彦さんが特に珍しいものを段ボールの上に置いた。マグロだけではなく、三崎の海を豊かさを知ってほしいと、拓哉さんの発案で5年ほど前から始まった「ダンボール水族館」だ。最近では兄の玄太さん(24)も手伝うようになり、幅広い世代が楽しみにする行事となった。
「対面販売は商売の基本。ここでしか体験できないような空間を若い人たちで作り、価値を高めたい」。朝市に誇りと喜びを持って生きていく。
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