報徳思想の真髄 新春特別企画 「推譲」こそ「おもてなし」 報徳福運社・草山昭理事長インタビュー

　報徳二宮神社に隣接して建つ報徳博物館（市内南町）が開館30周年を迎えた。郷土の偉人・二宮尊徳が伝えた「至誠・勤労・分度・推譲」の４つを根本に、 尊徳の功績を後世に伝える唯一無二の存在として国内外から来館者が訪れている。本紙では、報徳博物館を運営する報徳福運社の草山昭理事長に、博物館が果た してきた役割と尊徳の思想について話を聞いた。

心が建てた報徳博物館

　―２０１３年10月に南町の報徳博物館が30周年を迎えました。博物館建設の経緯を伺えますか

　「きっかけは１９７５年（昭和50年）。当時参院議長の河野謙三さんが、当時神奈川県副知事の佐々井典比古さん（初代博物館館長）に『尊徳さんが没後１２０年という節目を迎えるから何かやってみては』と提案されました。議長の申し出に佐々井さんは『報徳の仲間で何かしよう』と発案。北海道報徳社、大日本報徳社、全国報徳団体連絡協議会、一円融合会という４つの団体が中心となり、「二宮尊徳没後１２０年祭記念大会」を企画しました。翌76年９月、高松宮両殿下御台臨の下、市民会館大ホールで開催しました。

　大会では大会宣言を作り、第一条に『報徳の遺品・遺物が散逸する恐れがあるので、集積する施設の建設を』という内容が盛り込まれました。その後、報徳振興懇話会をつくり毎月、神社で懇話会を行いました。そこで博物館構想が出てきました。

　地所は、報徳二宮神社が先行取得することになりました。現博物館の地所は富士フイルム初代社長の社宅でした。初代社長の未亡人が亡くなり明け渡すことが決まった際、富士フイルムに譲渡をお願いしたところ『博物館建設なら』と許可をいただきました」

　―多くの人の支援で建設計画が進められたのですね

　「建設資金もまた、文字通り推譲金で賄いました。まず報徳の仲間が率先して５０００万円を集めました。当時はまだ企業に文化団体などへの寄付が根付いていない頃でしたが、元経団連会長で当時中曽根康弘内閣で臨時行政調査会長の土光敏夫さんの発想が報徳のイメージにぴったりということで、佐々井さんが土光さんに直接頼むことに。自宅へ出向くと即快諾してくださり、しかも建設賛助委員会会長まで務めてくださるとのことでした。土光さんは”経団連の募金委員長”と称された経団連副会長の花村仁八郎さんに話をつけてくださり、各業界団体から寄付が集まりました。

　これがニュースになると、関西経済界に声を掛け寄付を集めてくださったのが松下電器の松下幸之助さんでした。茅ヶ崎に松下政経塾をつくる少し前のことでした。こうして、皆さんの協力のおかげで約５億円が集まって、83年９月に完成、９月27日に土光さんをはじめ４００人が出席して開館式が行われました」

感謝こそ推譲の源

　―二宮尊徳が説く『推譲』とは、どのようにして培われるのですか

　「自身がその地域で成り立っているのは、周囲の人や環境のおかげであることに感謝することが『推譲』のもとになります。それは二宮家にあった教えなのだろうと思います。例えば、酒匂川の堤防が氾濫した際、病弱な父は堤防の普請には出られない、代わりに自分が出ていくけれど子どもなので大人並には働けない。どうしたら貢献できるか、子どもながらに考えて草鞋を作り、堤防普請のために働く大人たちに履いてもらった。これはまさに『推譲』の精神。

　また尊徳は、成人してから一家を再興しますが、再興できたのも大きくいえば世の中があるから。そういうところにも感謝します」

　―『推譲』の精神は、尊徳が行った村の再興に効果を発揮したようですが

　「尊徳は、得た利益の全てを使わず分度を立て、２割は残す、そして１割は自分のため、残り１割は社会のために使うことを推奨しました。自分のための１割というのは、いざと言うときのための備え。病気をするかもしれないですから。残りの１割は、自分が今日あるのは世の中があってのことという形での推譲です。

　企業でいえば利益が出て、剰余金の１割を従業員と会社の為に、１割を会社を支持してくれるお得意さん、いわゆる社会のためにですよね。

　生まれながらに五体満足でない人もいます。その人たちをどうやって支援するか、それは、社会として必要なこと。そういったことを報徳思想は教えてくれています。今日、自分がここまで育ってきたのは至誠があって、分度があって、勤労のおかげで推譲できるのです」

思いを実践へ

　―昨年、東京五輪招致のプレゼンテーションで、「おもてなし」が脚光を浴びました。「おもてなし」は「推譲」の精神に通じると思いますが、日本では報徳思想は浸透していると思いますか

　「報徳は実践が伴わないといけない。残念ながら、報徳思想が広く浸透したとは思えません。

　経済犯罪が非常に多く、大企業が次から次へと不祥事を起こす。経営者がお詫びして深々と頭を下げるシーンをよくテレビで見かけます。また、ＩＴの極端な発達により経済活動はずいぶん変わってきましたが、スピードからくるひずみもあると思います。国自体も一番肝心な精神的な教育をほとんどしてきませんでした。子どもたちにはゆとり教育といいながら、世界の教育レベルに負けていくといって心の問題がおろそかになっている。

　一方で、震災の津波の惨状を見ると『人のために無償で何かをしよう』という気持ちが揺り起こされる。人に喜んでもらうために『おもてなしをしよう』など、日本人の根底にはこうした長年の伝統に培われた『推譲』の心が生きていると思います。

　また、『真心』は『一円融合』です。われわれの中には、相対するものが必ずある。一円の中に取り込んで、受け入れることが大切だと思います」

　―博物館はどんな活動をしていますか

　「尊徳の遺品関係の伝承、事績の紹介、積み上げをしています。また『報徳ゼミ』では、尊徳の研究を続けている人の発表の場の提供や、講師による講演会などを開催しています。『友の会』には、博物館を支援してくれている人が集まってくれています。

　その他『古文書を読む会』や企画展を開催しています。また、博物館では10年前から、中国を中心に留学生を受け入れています。現在訪れているスイス人留学生で23人目。報徳思想を学び、活躍している人が大勢います。そんな留学生に、日本人について理解を深めてもらうための会なども開催しています」

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◆報徳博物館（小田原市南町１の５の72）

開館時間／９時〜17時（入場は16時半まで）

休館日／毎水曜、年末年始、祝祭日の翌日

※新年は５日（日）から　入館料／大人２００円、子ども１００円

【電話】０４６５・２３・１１５１

http://www.hotoku.or.jp