家族と紡いだ微笑み 田嶋 ハツ江さん 83歳
久しぶりに、「日本の家族」を見た。話を聞いていると、横から息子さんが補足する。途中でご主人が登場し、隣に掛ける。穏やかな口調でこぼれるのは、「家族と紡いできた日常」への感謝だ。
創業55年、小田原銀座商店街の一角「タジマ靴店」。7時に目覚め、足柄駅から決まった時間の電車に乗り出勤する。店じまいは夕方6時半頃だ。このサイクルを週に6日。元気の秘訣は「くよくよしないこと。楽天家なのね」。健康自慢だが、25年ほど前に一度だけ、くも膜下出血で倒れた。しかし、余病もなく見事に復帰。医者からは「本当に丈夫だね」とお墨付きをもらったそうだ。
4店舗を切り盛りしていたバブル絶頂期。仕事で帰りが遅くなっても、家族4人での食事を心がけた。その日の出来事を話しながら囲む食卓が、活力の源だったのかもしれない。商売の機微を教えてくれたご主人、支えてくれた娘、今も一緒に店に出る息子夫婦、家族の輪があって今がある。
隣で取材を見守るご主人とは、まもなく結婚60年を迎える。妻に向かい、少しおどけて「頭が下がります」とペコリ。「野菜の煮物がとにかくおいしいんですよ」とにっこり。「人生なんてあっという間。欲はないの。これからも一緒に、近場をのんびり旅したい」と返した。
帰り際、息子さんが教えてくれた。「毎日店のシャッターを閉めてから、『タジマ靴店の神様、今日も1日ありがとうございました』って言ってるんです」
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