ミスター高橋の 連載 「貯筋」の心得 ㉞角界の暴力としごき
大相撲の世界では神とも称される横綱日馬富士の暴力事件が発覚し、自ら引退を表明した。品格と礼節の規範とされる者の愚行なのだから当然であろう。相撲協会は世間の批判に対して暴力排除を公約している。だが、稽古場でのしごきは別物と考えたい。一般的に混同されがちな『暴力』と『しごき』の違いについて改めて辞書を開いてみた。暴力とは「相手の身体に無法な危害や苦痛を与える乱暴な行為」とあり、片やしごきは「厳しい訓練を課すこと」とある。角界ならずとも、暴力沙汰は言語道断だが、運動選手にとってのしごきは合法であり、あって然るべきと理解できる。
相撲の稽古未経験な私なので、プロレスを例にとって話そう。当然のことながら、新弟子と兄弟子の技量の差は歴然としている。リング上の練習で何度も何度も投げ飛ばされ、歯を食いしばって立ち向かって行くもののついには体力や持久力不足で、動けなくなってしまう。その状態で「もうよし」と即終了にしてしまったのでは、それ以上の進歩は望めない。つまり、そこからもうひと分張り気魂を促すのがしごきである。「立て!」という指導者の怒号と共に、時には竹刀で尻を叩かれる。限界の境目にあった新弟子は死力を振り絞って起き上がると、蹌踉としながらも食らいついて行く。疲労困憊の苦痛を乗り越えさせるこの積み重ねこそが、心技体を少しずつ向上させる基幹である。但し起き上がれないでいる状態が健康上か否かを見極める能力のない指導者が無闇に継続を強いると、それは虐めと化して事故に繋がりかねない。上下関係の優位を盾に将来ある若手の夢を踏みにじってはならない。
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