本堂から発見された資料を手にする伊藤さん
終戦後、シンガポール・チャンギー刑務所で教誨師（きょうかいし）としてＢＣ級戦犯死刑囚に寄り添った川崎区大師本町の明長寺16世住職で教師の関口亮共（りょうきょう）さん（故人・１９１３〜１９８２年）が保管していた受刑者の手記、死刑囚の遺族と交わしたはがきや手紙などが、同寺から見つかった。日本軍戦犯には韓国・朝鮮のＢＣ級戦犯者も多数含まれ、あまり知られていない彼らの実態の一端を伝える資料も見つかった。発見者で亮共さんの孫である伊藤京子さんと亮共さんの教え子で檀家の布川玲子元山梨学院大学教授は今月中旬、本を出版する。
遺族からの手紙も見つかる
亮共さんは１９５６年から明長寺住職となり、教師としては１９４０年から大島尋常小学校、大師国民学校、大師小学校の教壇に立ち、53年には四谷小学校で副校長を務めた。
シンガポール従軍は２度目の招集で、現地でそのまま終戦を迎えた。戦犯裁判開始を受け、１９４６年５月頃から翌年３月までチャンギー刑務所で教誨師を務め、87人の死刑執行を見送った。
資料は２年前、亮共さんの孫で同寺職員の伊藤京子さんが本堂の毘沙門天台座下の収納庫から発見。亮共さんがチャンギーで記したと思われる手記をはじめ、遺族とやり取りした33通のほか、亮共さんが戦地から家族に宛てたものなど１００通を超える手紙やはがき、出兵の際に贈られた３枚の日章旗、教え子からの寄せ書き、ちゃんちゃんこなどが保管されていた。
韓国・朝鮮戦犯関連も
チャンギー刑務所には多くの韓国・朝鮮人戦犯も収容されており、彼らから送られたはがきや手紙なども見つかった。のちに元韓国出身戦犯者の相互扶助団体「同進会」会長となり、国家補償を求める裁判の原告団団長を務めた文泰福（ムンテボク）さん（故人）が巣鴨プリズンから出所後送ったはがきには、チャンギー刑務所で一緒だった裵禎萬（ペジョンマン）さん（故人）が川崎区池上新田中留耕地（現・桜本２丁目）に住んでいたことが記されていた。
また、「趙文相（チョウムンサン）の遺書」として知られる趙さんの手記のガリ版刷り表紙、出所後、韓国へ帰った後に自殺した洪起聖（ホンギソン）さんがチャンギー刑務所から送った手紙もあった。
布川さんによると、朝鮮出身の軍属が多く含まれているにも関わらず、発見された遺族からの手紙の中には彼らの遺族のものが一通もなかったという。伊藤さんは「果たして家族のもとに届いたのか」と心配する。
生前の亮共さんについては「地元で人気のあった優しい先生であったと聞いている」と孫で伊藤さんの兄で現住職・松田亮寛さんは話す。また、酒飲みとして知られていたが、「それは戦争の嫌な記憶をなくすためだったのではないか」とも語り、「家族には戦争の話を一切しなかったと母から聞いている」と述べる。「戦友たちを処刑台に見送らねばならない想像を超える体験をしたのではないか」と見つかった様々な資料を前に語る。伊藤さんは「祖父が書いたと思われる手記には教誨師として大変な経験をしたことが筆跡から伝わった」と述べる。
伊藤さんと布川さんは本にまとめ、７月20日、『教誨師関口亮共とＢＣ級戦犯―シンガポール・チャンギー刑務所一九四六〜一九四七』を日本評論社から出版する。
生前の関口亮共さん
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「趙文相の遺書表紙」と洪起聖さんがチャンギー刑務所から送った手紙（左から）
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亮共さんの古い写真を見る布川さんと伊藤さん（左から）
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