川崎協同病院(川崎区桜本)の吉田絵理子医師(42)が総編集を手掛けた「医療者のためのLGBTQ講座」(南山堂)が刊行された。吉田医師は自らの生い立ちを振り返りながら出版への思いを語った。
同書は医療者に必要なセクシュアリティの基礎知識や、患者と向き合う医療面接など病院や診療所での具体的な対応法をまとめている。社会的な面についても書かれており、医療者だけでなく、教育に携わる人や、当事者にも是非読んでほしいという。また、吉田医師によると、医師の多くはLGBTQなどの性的少数者についての知識はあっても、当事者の生活の様子や困りごとなどに実感が湧きづらいと指摘。「この1冊を読めばLGBTQと医療について網羅的に学べるという書籍が欲しかった」といい、LGBTQの支援団体、医師、弁護士、ソーシャルワーカーなど多分野の専門家が執筆している。
吉田医師は当事者の一人。性自認は男女どちらでもないXジェンダーで、性的指向は男性・女性どちらも恋愛対象となるバイセクシュル。スカートが嫌いで、小学生の頃から自分の性に違和感を感じ、高校生の終わりから大学生の頃には周りと違う自分に「将来真っ暗」と思ったこともあったという。大学時代を過ごした京都で、今でいうLGBTQサークルに出会い、同じ境遇にある友人もでき、周囲にカミングアウトもした。その後、入りなおした医学部では、差別、偏見を恐れ、再び隠すことになった。
2007年に医師となってからも隠し続けてきたが、17年、社会人大学院でLGBTQと医学教育について研究するようになると、当事者として講演の機会が増えた。いずれ病院にも情報が入ると思い、18年仕事納めの病院職員が大勢いる場で「私には女性のパートナーがいます」と告白。会場は水を打ったように静まり返り、一瞬気まずい思いもあった。一方で、これまで男性と付き合っているように見せかけるなど、細かいうそを重ねていたことから解放され、「気がすごく楽になった」と振り返る。職場ではLGBTQの事で気軽に話しかけてもらえるようになるなどの変化もあった。特に「先生に対する差別があったら私は許さない」と言ってくれる職員がいたことは心強かった。今では自分にマイノリティ性があることが医師としての感受性を育てることになったと思えるともいう。
今の世の中は同性同士が手をつないで歩いても、指をさされることは少なくなったことを実感。パートナーシップ制度が認められるなど前進もある。しかし、いまだ婚姻は認められていない。吉田医師が友人に聞いた話では諸外国では婚姻が認められてから、差別が減っていったという例もあるという。ゆくゆくはLGBTQという言葉が必要のない社会になればいいと願う。
今後は地域に住むLGBTQ当事者や関心のある人が集まり「皆が安心してセクシュアリティについて自由に語れる場を作れたら」と夢を語る。
書籍はB5判、193ページ。9章34項目で構成。定価3300円。
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