市内板橋の旧東海道沿いにひっそりと佇む、出桁造りの建物が昭和の雰囲気を醸し出す「下田豆腐店」。長い間、地元に愛された老舗の豆腐屋が今日、静かに幕を閉じる。
明治39年(1906年)、現店主(3代目)・下田政行さん(79)の祖母・キクさんが開業。丹沢水系の水を汲み上げ、昔ながらの製法を生かして豆腐と創作がんもを作り続けてきた。20種以上もあるがんもは「みなさんに健康になってほしくてね」と3代目夫人のしま子さん(77)が仕込みを担当。手作りの素朴な味は、旅行のお土産としても人気だった。
下田豆腐店と言えば、ラッパの行商を思い浮かべる人も少なくないだろう。政行さんは家業を継いで間もない20歳の頃から週に3日、板橋、南町、早川地域で行商を続けた。「始めは自転車だったから後ろが重くてひっくり返ったりしてさ」と当時を振り返る。すぐにバイク免許を取得、スーパーカブが相棒に。行商を休んだのは、ヘルニアを患った約3年前の1カ月間だけだった。
昨年夏ごろ、「80も近いし、そろそろ行商はやめて、店も閉めよう」と思い始めたという政行さん。しま子さんも体調を崩し仕込みを続けるのが大変だった。「3月で閉めよう」夫婦は決断した。
かつて南町に住んでいた40代女性は「昔は夕方にラッパの音がするとボウルや鍋を持っていって、そこにお豆腐を入れてもらったものです」と寂しそうに話した。近隣に住む30代の夫婦は「夏は毎日のように豆腐や揚げを買いに来ていたので、本当に残念」と話した。
しま子さんは「自分の人生、豆腐屋に捧げたようなもの」と清々しい表情で語り、政行さんは「永い間ありがとう」と言葉少なに微笑んだ。
今日をもって閉店する同店は今後、旧三福不動産が貸主となり、建物を生かした店舗開業の希望者へ貸し出す予定だ。
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