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公開日:2011.06.30

直木の"記憶"に最後の別れ
富岡の旧宅 取り壊し前に一般公開

  • 往時の面影に見入る見学者

 富岡東の慶珊(けいさん)寺裏にある作家・直木三十五の旧宅が26日、一般に公開された。旧宅は取り壊されることが決まっていて、最初で最後の公開に集まった約190人のファンらが、文豪の遺した足跡に思いを馳せた。



 直木三十五は、43年という短い生涯のうちに、700篇もの小説・エッセイを遺した作家。没後、「直木三十五賞」が菊池寛によって創設され、その名を今に伝えている。



 最晩年の1933年、病に冒された直木が「終の棲家」として選んだのが、富岡の地だった。晴れた日には房総半島が望めたという絶景を目にした直木。慶珊寺の住職を突然訪ね、「ここが気に入ったので貸してほしい」と申し出たという。



 翌年にはこの世を去り、ここに住んだのはわずかな時間だった。しかし、初めて自分の意思で建てたその家には、直木のこだわりが表れている。



 所有者の橋本祐二さん(70)によると、直木は特にトイレにこだわったといい、黒いタイルを使った独特の意匠が光っている。当時は珍しかった水洗にするため、ポンプや浄化槽も設置させたという。その他、書斎の大きな木枠ガラスなど、随所に往時の名残が見られた。訪れた区内在住の女性は「とてもモダンな建物。これが最初で最後になるのは名残惜しい」と感慨深げだった。



 長らく空き家になっており、引き取り手も見つからなかった旧宅。増改築されており、文化財として保存する選択肢もなく、取り壊しが決まった。市の求めに応じて公開に踏み切った橋本さんは「取り壊し後も、直木がここに暮らしていたことを伝えていきたい」と話す。今後、直木邸があったことを示すパネルを自費で設置するという。



 くしくも直木生誕120年の今年。富岡に生きた文豪の足跡が、姿を消す。

 

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