横須賀美術館で所蔵品展「千年の翠」を開催している 川田 祐子さん 横須賀市出身
心の機微 絵に託し
○…遠くから見ると写真のような存在感の油絵。立体的で触りたくなるような質感がある、繊細なスクラッチやハッチングのアクリル作品―。見る者の固定観念を覆す独自の技法で、表現の世界を歩む。
○…幼心に目に焼き付いているのが、北下浦の自宅の近くから見えた夕焼け。武山を歩けば、足で感じる木の葉の感触、草花の彩り。都内で生まれ、「なるべく自然に近い場所に」と移り住んだのが横須賀だった。「考えたことを、言葉以外で表したい」―。美大出身の父親の影響もあり、絵を描く環境はあった。ただ、大学で専攻したのは美術史。在学中に赴いたヨーロッパでは、多くの美術館で古典画を見て歩き、近現代の抽象絵画にも出会った。技法や表現の可能性を自問する機会になったが、「描きたいものがあっても、自分にできるのか」という躊躇から抜け出せないでいた。一方で、「画家のハードルを勝手に上げてしまってはいないのか」と、己への期待に胸が高鳴ることもあった。卒業後に携わった美術館学芸員の仕事にもやりがいはあったが、「絵画に対する情熱を、自分のために使ってもいいんだ」。描きためた作品を手に独立した。
○…20代半ばまで暮らした横須賀から横浜、相模原と居を移したが、折しも震災の前後。何を描けばいいのか立ち止まってしまい、「心の隙ができた」。新たな居場所を求め4年前、長野に拠点を据えた。表現への葛藤や、長年の考え方の癖。自身を客観的かつ論理的に俯瞰する言葉が並ぶ。
○…絵は内面を映すもの―。技法の変遷も、心や体と表裏一体。「半年近く、ひたすらスクラッチ(削る)作業をしていた時は、重く、自分に縛られていた」。ようやく、その気付きや経過を人生の一部と捉えられるようになった。緑と青、自然が織りなす美術館での所蔵品展は「新しい展開への出会い」。続けていていいのだろうか─?という自問は、もう必要ないようだ。
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