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エコチル調査 未来の子どもにできること シンポジウムで研究成果など紹介
「第11回子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)シンポジウム」が2月20日、オンラインで開催された。講演ではエコチル調査の研究成果などを紹介。パネルディスカッションには、教育評論家の尾木直樹さんや産婦人科医の宋美玄さんらも参加し、「エコチル調査によって子どもたちの未来がどのように変わるのか」を話し合った。
講演では、「妊娠中の体重増加曲線」「日本人女性における妊娠中の体重増加量と低出生体重児、巨大児との関連」「鉛と赤ちゃんの体重に関する中心仮説」の研究が発表された。こうした成果が、妊婦や子どもの健康に関するガイドラインの策定などに貢献していることも示された。
パネルディスカッションでは、「同調査によって子どもたちの未来がどのように変わるのか」をテーマに6人のパネリストが参加。コロナ禍が子どもや妊産婦の生活や健康に大きな影響を与えていることなどが指摘された。また、調査から分かったことを今後のライフスタイルに反映していくことが重要との認識を共有。教育現場などに積極的に情報発信をすべきとの意見もあがった。
最後に尾木さんは「調査結果は宝の山。科学的な知見を親しみやすい多様な方法で、子どもにダイレクトに伝えたい」、宋さんは「妊娠期や子育ては膨大な情報に惑わされがち。大規模で信頼できるデータを示すことで、妊産婦さんらが楽になると思う」と期待を寄せた。国立環境研究所エコチル調査コアセンター長の山崎新さんは「皆さんの期待をひしひしと感じる。しっかり研究を進めたい」と話した。
調査で見えてきたこと【1】川崎病発症予防に光 妊娠中の葉酸摂取がカギ
横浜市立大学小児科の伊藤秀一教授、国立成育医療研究センターの小林徹データサイエンス部門長らの共同研究チームは、エコチル調査に登録された妊婦から生まれた子どもの生後12か月までの川崎病発症について解析した。
原因は未だ不明
川崎病は1967年に初めて報告された、まだ原因不明の病気。全身の血管に炎症を起こし、主に4歳以下の子供に発症する。発熱、目が赤くなる、舌にブツブツが現れるなどの症状がある。こうした症状は免疫反応によるものだと考えられているが、症状を引き起こす具体的な原因は分かっていない。子どもたちの人口は減っているのにも関わらず、患者数は年々増加しており、乳幼児の100人に1人はり患すると推定されている。
研究では、川崎病を発症した343人と未発症の参加児を比較。その結果、妊娠中期から後期の葉酸サプリメント摂取が川崎病の発症リスクを減らす可能性が明らかになった。逆に、母親の甲状腺疾患の既往歴や、兄妹・姉妹の存在が発症リスクを増やす可能性も示唆された。
妊娠中の適切な葉酸の摂取は、脳やせき髄などのもとになる”神経管”がうまく作られない障害や、唇や上あごに亀裂が入った状態で生まれてくることを予防する効果も示されている。解析に参加した済生会横浜市東部病院小児科の福田清香医師は「お母さんたちが妊娠中に取り組みやすい習慣で川崎病を予防できるかもしれないと思うと嬉しい」と話す。
年齢拡大し研究推進
同結果は1歳までに川崎病を発症した子どもを対象としているが、現在その対象を3歳までに拡大し、同様の解析を行っている。将来的には6歳までの解析を予定している。また、母体の妊娠中期から後期における血中葉酸濃度と1歳までの川崎病発症についての詳細な解析を実施し、今回の結果を異なった観点からも解析する。福田医師は「今後は葉酸が本当に川崎病の予防につながるのか、さらに研究を進めていきたい」と話した。
調査で見えてきたこと【2】アレルギーの要因を解析 妊娠中のうつがリスクに
年々増加しているアレルギー疾患の多くは、環境中の物質・生活習慣・遺伝などが関係しあって起こるといわれている。全国10万人規模のエコチル調査の膨大なデータは、この疾患の研究促進に大いに役立つと期待されている。エコチル調査メディカルサポートセンター特任部長で、国立成育医療研究センターアレルギーセンター総合アレルギー科の山本貴和子医長にアレルギーについて話しを聞いた。
◇ ◇
――エコチル調査の意義をお教えください。
山本「病院がとったデータではないので、日本の一般の集団に近いまとまった数のデータが得られるのは理想的。発症する前から見られるのは貴重です。また地域ごとにデータをとっているので、地域特性も出てくるのではと期待しています」
――今までに分かったことは。
「私が関わった研究では、母親が妊娠中に何らかのうつ状態や不安障害があった3歳児は、ぜん息や食物アレルギーの発症リスクが上がることが分かりました。さらに、妊婦の喫煙は受動喫煙を含め、子どものぜん鳴やぜん息のリスクを増加させるという結果もあります。妊娠中によい生活習慣で心と身体が元気であることの大切さを改めて実感しました。また、乳幼児期に湿疹がでたお子さんは、食物アレルギーになりやすいという結果もあります。これは、皮膚が荒れているとそこからアレルゲンが体内に侵入するためと考えられます。いずれにしても早期治療が重要です」
――開始から10年が経ちましたが、今後についてお教えください。
「子どもの成長とともにアレルギーがどう推移していくかの一般的なデータが得られることが期待されます。これからは、幼児期後半に発症する疾患の解析も始まり、より多くのことが分かるはず。環境省の事業ですので、こうしたデータや研究をもとに有効な政策に結びついていけばと思います」
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