著書「駅伝ランナー」で作家デビューした 佐藤 いつ子さん 磯子区在住 49歳
「好き」に一途、自身に重ね
○…磯子区や金沢区で行われる駅伝大会を舞台に、疾走するランナーやその心模様を清々しく描いた。たった20枚の原稿から始まった物語は、3部作を結ぶ長編に。書き終えた時には「長距離を走った後のように胸がぜーぜーする気持ちだった」と笑う。生まれたての文庫本を手にすると涙があふれた。「人生そのもの。全てを注ぎ込んだ」と表紙を優しくなでる。
○…「書くことが好きだった」。クラスメイトを登場させた探偵物語が教師の目に留まり、帰りの会で朗読したのは小3の時。だが、青山学大を卒業し、営業職に17年を注ぐ間、その芽は影を潜めていた。「書きたいな」。出産後、読み聞かせをするたびによぎる思い。「好きなことを仕事にする憧れがどんどん膨らんだ」。娘が小学校へ入学すると退職。児童文学を習い始めた。
○…芽が出ないまま11年が経った。初めこそもらった賞もぱったり止み「落ちて落ちて落ちた」と笑う。息子が出場する区民駅伝を初めて観た時のこと。「走ってもないのにラッキーじゃん」。誰かの一言に、メダルをかけた補欠選手が目線を落とす瞬間を見た。「きっと複雑だったはず」。その一場面から紡いだ20枚の原稿が同人誌に載ると、「続きが気になる」と編集者から連絡が入った。「天にも昇る気分」。娘の協力で、陸上部の友人を取材するなど加筆をスタートさせた。
○…主人公は、秀でた才能はないが走ることが好きな少年・走哉。「とことん好きなことに一生懸命になる姿を描きたかった」。誰にもいつか訪れるその瞬間。「書くことに出合うまで、私にもなかった」。悩んだ11年間も「一度もやめようと思わなかった」と、夢中で走る走哉の姿に重ね合わせる。「佐藤いつ子のファンになった」と娘は喜び、息子は初版を配り歩いた。嬉しいのは、読む人それぞれに響く場面があること。「過去やわが子を思い大人も共感してくれた。ジャンルに囚われず作品を書いていきたい」
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