日本の古典芸能「能」の主役などを演じる「シテ方」には5つの流派がある。その1つ「宝生流」の達人で港南区在住の大坪喜美雄(本名:近司)さん(75)は昨年、国の重要無形文化財保持者の認定を受けた。
人間の悲しみや怒りを、役割分担を通じて表現する能。現在宝生流が演じる曲目は180以上にのぼるという。大坪さんは「いろいろな物語を演じる中で、何百年も昔の世界にタイムスリップして追体験できる」とその魅力を語る。
その一方で、観客も演者も高齢化が進んでいる、と指摘する大坪さん。「生の舞台を見に来てもらい、日本の伝統文化を知ってほしい。特別な予備知識は必要ないので、観客と役者が一体となって同じ時間を共有する機会を楽しんでもらいたい」と若い世代に参加を呼びかける。
東京都出身の大坪さんは、おじが能楽師だった縁から、12歳で能を始めた。修業の日々は過酷だったが「仲間や先輩に恵まれた。偉大な先輩たちと過ごした時間は財産」と回顧する。
1960年に「鞍馬天狗」の「子方」で初舞台を踏み、シテを初めて務めたのは23歳の「胡蝶」だ。その後も現在に至るまで能楽の大家・世阿弥の言葉「初心忘るべからず」を胸に、60年以上研さんを積み続けている。
重厚かつ繊細な宝生流の伝統的技法・芸風を体現し、自主公演の開催などを通じて後進の育成に尽力してきた大坪さん。現在は東京藝術大学の非常勤講師も務めている。「師や先輩方から教わってきたことを伝承していくのは、自分に与えられた使命だと思っている」と次代を担う後輩たちへの思いを語り、「先の長い道のりだけど、希望や目標を持って続けることで必ず何かが見えてくる」とエールを送る。
孫との共演も
次世代の希望は自身の足元にも萌芽している。小学5年生の孫が現在、能楽師を目指し稽古に励んでいる真っ最中だ。大坪さんがリモートで稽古をつけることもあるといい、今年5月には都内の宝生能楽堂での共演を控えている。「孫の晴れ姿を見るまであと10年くらいは頑張らなきゃね」
今後の目標を「1つ1つの舞台にベストを尽くす」と語る大坪さん。次代にバトンを託すべく舞台に立ち続ける。
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