日本の伝統技法「型絵染」を伝え続けている 岩井 香楠子さん 旭ケ丘在住 76歳
ぬくもりを染める
○…模様を彫った型紙を用いて着物や帯に色を染め出す「型絵染」に魅せられ35年。1979年に新人染織展初入選、最近では12年の日本伝統工芸展染織展で東京都教委賞を受賞しているが、「作品と言えども、人が着ることを常に考えて作っている」ときっぱり。絞り染めを組み合わせた独自の作品は、型絵染の細かな文様と絞りが見せる濃淡により、あたたかな人柄が映し出されている。
○…彫刻家だった父が斎藤分町のアトリエに招き入れた、捜真女学校の美術教師だった日本画家・小倉遊亀氏から絵を教わった。当然のごとく、周囲から東京芸大への進学を勧められたが横浜国立大へ。生物学を専攻し、「教授の助手として、昭和天皇が獲ってこられたカニをスケッチするのを手伝った」と懐かしむ。毎日のように描いたおかげでスケッチ力が鍛えられ、卒業後に東京芸大へ。3年生のときに学生結婚し、夫の仕事でアメリカへ渡った。
○…親戚に借りた着物をまとい、足を踏み入れた社交界。「着物は究極のロングドレス」と、そこで世界各国の人々を魅了する着物の素晴らしさを再認識した。不慮の事故で夫を亡くし、幼いわが子を抱いて帰国。着物の道を選び、東京クラフト研究所で染織を学んだのち、人間国宝・鎌倉芳太郎氏に型絵染を教わった。家業である「岩井の胡麻油」を継いだ父のアトリエを型絵染の工房に。気になる草花や景色を見つけると、すぐにスケッチブックにデッサンする。「描いた紙は”宝箱”に全てストックしてあるの」
○…男性ボーカルグループや歌舞伎役者・市川海老蔵氏の追っかけをする、乙女な一面も。「もう4年くらい。ミーハーなの」と恥ずかしそうに笑う。工房に訪れる黒猫は懐いてくれないが、2人の弟子とはあうんの呼吸で作業に没頭。巣立った弟子は20人ほど。型絵染絵を後世に伝えることが課題だ。「手仕事は人を優しくする」と微笑む。
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