厚木・愛川・清川 コラム
公開日:2024.01.01
お告げ
実は還暦を迎えた時に劇団を解散するつもりでいた。二十歳の時、学生劇団としてスタートさせて四十三年。まさかこんなに続くと思わなかった。同じ頃に旗揚げした小劇団はすべて消えている。扉座は演劇界のシーラカンスと言われている。
しかしその運営に際しては主に経済的な危機を常に抱えていて、主宰である私にかかる重圧は筆舌に尽くしがたい。大きく事故る前に畳んでおきたいのが本音だった。劇団は消えても戯曲を書いて演出する仕事は消えず、むしろ自由に引き受けられるようになるし。ここまで誰に頼ることもなく私一人責任を負ってきたのだ。そろそろ荷を下ろしても許されるだろう。
解散スケジュールを発表しようと決意した頃、大阪でタクシーに乗った。運転手さんは私が東京住まいだと知ると自身のことを語り始めた。数年前まで某大企業の東京本社勤務だったが、還暦前にもういいか、と思って十分な退職金を受け取り、故郷に帰ってのんびり暮らすことにした。しかし、そののんびりは続かなかった。あまりに退屈過ぎた。運転が好きだったので、こうしてタクシーの運転手を始めたのだ、と。
「六十歳での引退は早すぎました」
その瞬間まで私は何ひとつ語っていない。ただその人が勝手にそう言ったのだ。でもその言葉が妙に引っかかって、色々考えると、解散しない理由もいくつか見えて来た。
あの人は天使だったのか、悪魔か。今も謎だ。
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