落語家・春風亭昇太さんに弟子入りし、落語の芸を磨く笹野台出身の若者がいる。春風亭昇羊さん(本名、星野友祐さん・25)は今年5月に二ツ目へ昇進。記念公演を8月4日に、関内ホール(中区)で行った。前座修行を終えた今、より一層自らの落語に没頭する日々を送っている。
「座布団の上であらゆることができる」と昇羊さんは落語の魅力を語る。古くは16世紀に源流が形成されたとされる、日本の伝統芸能「落語」。古典作品が受け継がれると同時に、時代の色を反映させた新作が日々披露され、客を飽きさせることはない。噺家が持つ扇子は、ある時はそばをすする箸、ある時は愛しい人から届いた恋文、そしてまたある時は飯をよそうしゃもじに変わる。一歩とその場を動かずとも、表現の幅は無限大だ。伝統と時代の先進が両立する落語の世界で、昇羊さんは一人前の噺家への道を走り出した。
落語に夢見つける
笹野台小学校出身。小学生の頃からお笑いが大好きだった。そんな昇羊さんが落語の門を叩く転機が訪れたのは高校を卒業してすぐのこと。「やりたいことを探してフラフラしていた」時、お笑い芸人が『禁酒番屋』という古典落語を、モノマネなどを加えてアレンジしたステージを見た。本物の噺家の芸を見た訳ではなかったが、衝撃を受けた。落語は、伝統作品だけでなく、創作落語と呼ばれる新作を作ることを通して、自らがやりたいと感じるお笑いも表現できると思ったからだ。当時「新喜劇の役者や作家になりネタを作ることも考えていた」昇羊さん。「落語は自分がやりたかった、お笑いをすることとお笑いを作ることの両方ができることを知ったんです」。自分の「やりたいこと」が見つかった瞬間だった。
昇羊さんは2012年に春風亭昇太さんに弟子入りする。名前は未年生まれであることが由来だという。昇太さんの弟子になった理由について「うちの師匠は若手の時から周りと違うことをしている落語家でした。伝統芸能の世界ですごいなと。この人しかいないなと思いました」。自らお笑いを作りたいと思っていた昇羊さんにとって、古典を受け継ぎ、芸を磨くだけでなく、創作落語にも積極的に取り組む昇太さんの姿は、自身があこがれる落語家のイメージに近い存在だった。
落語の道に入ってからは二ツ目に昇進するまで、前座として4年間、ほぼ休みなく寄席で雑用や裏方業務をこなす修業の日々。空いた時間で必死に落語を覚えた。帰宅後はもちろん「電車の中など、移動中も口パクで練習しました」。自身の落語家としての在り方については「今の僕の考え方は、ほぼ全部師匠の考え。人としてすごく尊敬している」と話す。尊敬する師匠の背中を追い続ける。
地元では敬老会に出演
昇羊さんは2年前から、実家のある笹野台で笹野台地区社会福祉協議会が主催する敬老会に出演している。同会への出演は、地元で落語をしたいという昇羊さんの希望だった。「僕を子どもの時から知っている人もいた。『星野君、立派になって』みたいなことも言ってもらえて。自分の存在を喜んでもらえたのは嬉しかったです」と笑顔で同会の様子を振り返る。
笹野台地区社協の近藤和義会長は「敬老会はみんな喜んでいました。地元での知名度も人気も上がってきている。真打になっても敬老会に出てほしい」と話す。笹野台地区連合自治会の高橋久蔵会長は「笹野台出身の人が大きく羽ばたいていることを地域として歓迎したい。みんなでしっかり応援したい」と笑顔を見せた。昇羊さんも「笹野台は温かい街。今後も地元での公演を続けたい」と話している。
公演で見えた師弟の絆
関内ホールで8月4日に行われた二ツ目昇進披露公演は、約250人もの人が来場し、会場は満席になった。同公演では、昇羊さんの師匠である春風亭昇太さん、兄弟子の春風亭昇々さんらも高座に上がった。昇羊さんは自身の創作落語を2席披露。ハリのある声で迫真の落語をし、会場は大きな笑い声で包まれた。
師弟の絆も垣間見られた公演となった。仲入り後に行われた、昇羊さん昇進の口上で師匠の昇太さんは「私は昇羊と言う名前は自分で決めさせたんです。生き方も自分で決めてほしい。落語家は何もない原野を自分の足で歩いて行けるかどうか、そういう仕事」と昇羊さんを激励。その上で来場者にも応援を呼びかけた。昇羊さんも、高座で昇太さんへの尊敬を語った。
終演後、来場者からは「おもしろかった」「楽しかった」と口々に感想が聞かれた。昇羊さんは公演を終えて「成功したかどうかは分からないけど、とりあえず一個の節目は終わった」と安堵の表情。今後については「どんどん頑張っていきます」と意気込んだ。
一歩ずつ一人前の噺家へ
「二ツ目に昇進して寄席で新作が披露できるようになったのは本当にうれしかったですね」。昇進して落語家としてできることが増えた昇羊さん。「自分がおもしろいと思ってやったことを、自分と同世代の人に楽しんでもらいたい」と語る。力を入れるのは落語の創作活動だ。前座時代から時間を作っては、自分の周囲で起こったことなどを落語にしてきた。今は、入門前にあこがれた、ネタを作り人前で披露することができる幸せを噛みしめる。
二ツ目になると、寄席では紋付の羽織を着られるようになるなど、身なりは一人前の噺家になる。その一方で、今後は仕事を自分で見つけなければならないなど、落語家としての新しい壁にも直面する。昇羊さんは「プロだけど半人前」と自身の現状を自覚する。地元や周囲、ファンの応援を背に受けて、無我夢中で芸を磨く日々を送っていく。
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