当時、株式会社テレビ神奈川の取締役報道局長兼コンテンツ局長を務めていた福島俊彦さん。午後3時から始まる予定だった会議を待っていた時、東京で大きな揺れに襲われた。「どうやら、東北を震源とした大地震が起きたらしい。とんでもないことになったぞ」。その時から「地元局として、一体、何ができるのか」を考える日々が始まった。
神奈川県内でも震災後すぐに支援活動を始めた人が多くいた。そんな人たちをテレビで丁寧に紹介することによって、東北で起こった大震災を他人事ではなく、“自分事”として捉えてもらうことが大きなメディアの役割だと考えた福島さん。伝えることに必死になっていた県内の記者たちのサポートや、東北に向かおうとする若手記者たちがしっかりと動ける体制作りに奔走した。
そんな日々の中で、福島さん自身も東北と深く関わることになっていく。取材などで特に深く関わったのは、岩手県大船渡市だった。同社取締役を退任後、同市にある「一般社団法人大船渡津波伝承館」の運営をボランティアとして、手伝っているという。現在は、同一般社団法人の監事も務めている。「自分事にしてほしいと言い続けてきた。そのように言ってきたので、自分自身もできる範囲で、何かしらの形で関わっていきたい」と思いを話した。
早期避難の重要性
大船渡津波伝承館は、映像などを通じて、大津波の脅威と経験を後世に伝えるための場所として、設立された。
福島さんは、広報面や映像制作などで関わってきた。「地震だ!津波だ!さぁ逃げろ!!」。映像の中には、大船渡を襲った津波映像とともに、かなり強いメッセージを入れ込んでいる。「東日本大震災では、亡くなった人の約40%が逃げなかった、約20%が逃げる途中だったと言われている。早期の避難さえあれば、助かった命がたくさんあるのだ」と福島さん。「自分だけは大丈夫」「まだまだ水が来るはずがない」などと思い込んで平静を保とうとする心の動きを正常性バイアスと呼ぶ。「自分自身も震災前までは、津波がここまで大きな被害を引き起こすなんて想像できなかった」と振り返った。
災害心理学の第一人者、広瀬弘忠氏が震災前に『人はなぜ逃げおくれるのか』という著作の中で、警報を受け取っても50%以上の人は避難行動に移らないと述べている。「だからこそ、5000年先まで伝え続けたい。未来の人たちに助かってほしいから」と福島さんは語気を強めた。
伝え方を模索
1人でも多くの人に津波の脅威を伝えたいと、同施設の取り組みは、映像制作だけに留まらない。「大船渡DE未来ウォークラリー」も津波の脅威を伝える手段の1つだ。
同市内各地の被災現場に津波伝承杭を設置し、QRコードをつけている。それをスマートフォンで読み取ると、当時の映像やその後の復興の様子などが見られる仕組みだ。被災していない人にも、実際に足を運んでもらうことで、より実感を持って、当時の様子を理解してもらえるという。そのほか、紙芝居の制作・上演など伝える手段の模索は続いている。「海に面している神奈川県も、津波は決して他人事ではない。多くの人に伝える方法を模索していきたい」
「ぜひ、大船渡へ」
東日本大震災からまもなく8年を迎える。
「一番怖いことは、忘れてしまうこと。節目で1人ひとりが思い出す努力をしなくてはいけない。風化させてはいけない」と福島さん。「行ってみないとピンとはこないかもしれない。現場に足を運んで感じることはたくさんあると思う。ぜひ、一度、『大船渡津波伝承館』を訪れてみてほしい」と呼びかけている。「『地震だ!津波だ!さぁ逃げろ!!』。うるさくたって、何度でも、何度でも、繰り返し言わなければならない。助かってほしいから」。長年メディアに身を置いてきた福島さん。伝える使命を持ち、これからも、未来の人たちのためにしっかりと伝え続けていく。
同館の住所は、岩手県大船渡市大船渡町字茶屋前7の6。水曜日が定休日で、開館時間は午前10時から午後3時半まで。「必ず、予約をしてからご来館ください」と同施設の担当者は話している。
予約や問い合わせは、同施設【電話】0192・47・4408へ。
緑区版のローカルニュース最新6件
|
|
|
|
|
|