この連載では今年5月に元号が「令和」へと変わるのを機に
さまざまな切り口から「平成」の時代を振り返ります
「以前は自宅のパソコンが頼りだった。それをポケットに入れて持ち歩けるようになったんだから、スマホができたのはすごくよかった」
そう話すのは、栄区視覚障害者福祉協会で会長を務める三嶋伸昭さん。会社員で働き盛りの40代後半に突然失明した三嶋さんは、生活の変化に塞ぎ込んだ時期もあった。そんな中で再び社会的と関わりをもつようになったきっかけの1つが聴覚から情報を得る「音声パソコン」の存在だったが、いまやスマホはそれにとってかわっている。
情報機器の飛躍
「平成」の30年間の中で通信技術・情報機器は大きな進歩を遂げた。それに伴って身近なものとなり、携帯電話・PHSの普及率も平成元(1989)年度末でわずか0・4%だったが、29(2017)年度末には136%(いずれも総務省統計)となっている。1人1台が当たり前の時代に、さらに生活を変えたのがスマートフォンだった。
三嶋さんも生活の幅の広がりについて、「(音声パソコンは)自宅にいる時はいいが、外に出ればそういうパソコンがどこにでもあるわけじゃない。その点スマホはいい」と語る。例えばアップル社のアイフォーンには音声ガイド機能が元々備わっており、通話はもちろん天気予報やバスの時刻確認、メッセージアプリまで使用できる。
三嶋さんの操作スピードは健常者と変わらず、音声を頼りに見えないキーボードに手探りで情報を入力する。スマホには音声入力機能もあるが、「使わないですよ。だって街で一人で喋っていたら変でしょ、恥ずかしいじゃない」と一笑する。
選択肢が人を豊かに
視覚障害者の誰もが三嶋さんのように機器を使いこなせるわけではないだろう。とりわけ高齢であるほど機器への苦手意識をもつ人は少なくなく、「音声訳ボランティアいずみ」(泉区)はそんな人たちの支援を30年続けてきた。音声訳とは広報誌や新聞、書籍などを読み上げて録音し、文字を音声化することで、録音機材の変化などはあるものの、人の声を吹き込むという作業の本質は変わらない。60代から80代を中心に変わらぬニーズに応えているという。
また文章をパソコンに打ち込んでデータ化すれば、スマホなどの読み上げ機能により人工音声で聴くことが可能だ。今では文章の打ち込み依頼も増えており、同団体の永井けい子さんは「私たちも技術の進化についていくのは精一杯」と話す。その一方で、「やっぱり人が吹き込んだ声の方が温かみがある」とのニーズも根強いという。
前述の三嶋さんは「視覚障害の高齢者は確かにスマホを使っていない人も多い。でもそれは健常者も同じでしょう。選択肢が多ければ暮らしやすくなる人は増える」と指摘する。音声訳も重要な選択肢として多くの人の暮らしを豊かにしてきた。
折しも平成の末、28(2016)年に施行された障害者差別解消法の基本方針として内閣府は、障害者が日常的に受ける制限は障害者個人の心身の機能障害だけに起因するのではなく、「社会の障壁」により生じるとしている。次の時代にはさらに進んで、多くの人が暮らしやすい社会へと変わっていくことが望まれる。
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