花嫁姿、プレゼントします――。「ドレスを着たくても着られなかった」。そんな戦時中を生きた女性らにボランティアでウエディングドレスを作り、今一度花嫁姿を楽しんでもらおうと手作りドレスの創作に励んでいる女性が逗子市にいる。桜山在住の矢部基子さん(70)だ。
「今が青春」生き生き創作
「胸元に布を当てて、こうして折り返して…」。矢部さんが作るドレスの素材はたった1枚の布地。それを切らずに針や糸も使わず、テープだけで要所をとめながら仕立てていく。自身が考案した「テーピングドレス」という技法だそうだ。
長年趣味でフラワーアレンジメントをしている矢部さん。きっかけはブーケ展に出品するため、作品を持つマネキンにウエディングドレスを着せようとピンワークドレスの講座を受けたとき。「これをテープで止めれば人でも気軽に着られるドレスが作れるのでは」と閃いた。「80代の人たちは結婚当時、ドレスという言葉も口にできなかった。今からでも着たいという人に着させてあげたい」。裁縫の心得はほとんどなかったが、映画や結婚雑誌などで形やデザインを研究。手先の器用さもあり、今では2時間もあればイメージ通りのものが作れるまでになった。
テーピングドレスの利点は軽い上に仕付けの応用がきくこと。腰が曲がっていたり、体に障害を抱えていてもその場の微調整で着る人の体形ぴったりに合わせることができる。またテープを外せば1枚の布に戻るため、再利用も可能だ。
「まるで皇后様みたいだわ」。生れて初めてドレスを着た近所に住む83歳の女性は満面の笑みで喜んだという。「ドレスを着ると会話も弾んで笑顔が生まれる。喜んでもらえるのが何よりの励み」と矢部さん。
50歳のときに転倒による怪我から一時は「一生車椅子生活になるかもしれない」と医者に告げられ絶望を味わったこともある矢部さんだが、今はドレス作りが何よりの生きがい。「楽しくてしょうがない。今が青春真っ盛りという感じです」。今後も高齢者のためのドレス作りを続けるほか、10月には逗子海岸で行われる「浜の芸術祭」に出展。さらに来春には地元の高齢者をモデルにしたファッションショーも構想するなど意欲は尽きない。70歳の青春はまだ始まったばかりだ。
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