町田市立博物館より【2】 「京名所模様小袖」 学芸員 西井 智美
町田市立博物館では、【前期】9月13日(土)〜10月5日(日)、【後期】10月11日(土)〜11月3日(月・祝)まで、「江戸の衣装競(くら)べ〜国立歴史民俗博物館 野村コレクション〜」展を開催しています。
野村コレクションは、明治から昭和にかけて活躍した美術商・風俗史研究家の野村正治郎氏(1879〜1943年)が集めた一大コレクションです。現在の着物の原型である小袖や、小袖の形をなさない裂(きれ)を屏風に貼り付けた小袖屏風など1000点以上の作品で構成されています。展覧会ではこの中から、おもに江戸時代の武家・町人女性が着用した小袖や簪(かんざし)などを前・後期あわせて約95点展示します。
精密で華やかなガイドブック
今回は展覧会の後期に出展される「京名所模様小袖」をご紹介します(=写真)。
江戸時代中期の町人女性に着用されたもので、全面に京都東山の風景が友禅染めで表現されています。中央には清水寺、右袖には音羽の滝、左袖には地主神社、左腰には八坂神社、裾には鴨川にかかる五条大橋などが見え、まるでガイドブックを眺めているようです。
このように小袖に名所模様が表わされるようになった背景には、それまで小袖に用いられていた絞り染めや刺繡といった技法にくらべ、友禅染めは細かな絵画的な模様表現ができるようになったこと、江戸時代中期には経済的な安定を得た町人におとずれた旅行ブームとそれにともない次々と名所図会が刊行されたことが考えられます。
現在も友禅染めの優品として著名なこの作品ですが、旧蔵者であった野村氏もこの小袖を大変気に入っていたそうです。購入資金を結納金と称し、女性物である「京名所模様小袖」を花嫁、自身がすでに所持していた男性物の「江戸名所模様襦袢(じゅばん)」を花婿とした結婚式を開いたというエピソードまで残っています。
この江戸時代中期の精緻な友禅染めの技術が大いに発揮された華やかな作品を、ぜひ会場でご鑑賞下さい。
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宮司の徒然 其の137町田天満宮 宮司 池田泉12月21日 |
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