宮司の徒然 其の25 町田天満宮 宮司 池田泉
ワースト
繁華街から少し外れた公園には、しばしばアコギを叩いている若者がいる。これも私があまり好きではない略称だが、アコースティックギターの略。私も学生時代にかじったが、当時はフォークギターと呼んだ。クラシックギターもガットギターだったし、30年も経つと呼び名も洗練されるということか。一方、郊外の広い公園にはトランペットの練習をしている若者が出没する。春先には同様に鳴き声の練習をするウグイスとのコラボが面白い。そこへ一人の年配の男性が現れ、タンポポの咲く草地で膝まずいた。そして腕立て伏せ一回。少し移動してまた両膝をついて顔が地面に着くほどの腕立て伏せ一回。ウグイスとトランペットのコラボに拝礼をする年配の男性が加わりさらに面白い光景になった。必ずタンポポがたくさん咲いている場所だから気が付いた。私と同じ匂いがする。その人はタンポポの花の裏側を覗いていた。どうでもよいことだが、私の場合は片膝をついて少しタンポポの花を指で傾けて観察するから少しスマートだ。
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タンポポの多くは西洋タンポポと在来の日本タンポポまたは関東タンポポに分けられる。その見分け方があの男性のイスラムの礼拝のようなポーズだ。花の下のガクが支えるようにくっついているのが日本の在来種で、反り返って支えていないのが西洋タンポポと至極判別しやすいが、日本タンポポも花が終齢期になるとガクが反り返るから、判別は花の咲き始めが適している。西洋タンポポは侵略的外来種ワースト100にランキングされているが、果たしてワーストなのだろうか。在来種のテリトリーを奪うとか、交雑種ができるとか、それが危ぶまれるから指定されたのだろうが、実はそのトランペットの公園は不思議なほど日本タンポポばかり。西洋タンポポは公園入口にわずかにあるだけ。これは明らかに住み分け、つまり好みの場所の違いだ。さらに、花粉による交雑については西洋タンポポが受粉をせずに種を作って繁殖するということから、全くないわけではないが、交雑種の爆発的な繁殖はなさそうだ。
私がワーストに疑問を持つ理由は他にある。どちらのタンポポも食用にするには区別がないからだ。葉は茹でてお浸しに、生のままサラダに、蕾はかき揚げになるし、根っこはゴボウのように真っ直ぐ下に伸びているから掘り出すのは大変だが、乾燥させて細かくすればコーヒーの代用品になる。幾度かやってみたが、思い込みで何とかなるレベルではなくコーヒーには程遠いが、タンポポ茶としてなら苦みもあって美味しい。タンポポは様々な薬効もあって、ヨーロッパでも日本でも利用されてきている。さらに中空の花の柄は少し潰して吹くと笛になるし(苦いけど)、アフロばりの種は吹けば面白いように飛ぶ。きっとパラシュートの原点だ。こう考えると、外来種が一概に悪いものとは考えにくい。
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最近の我々はとかくランキングという言葉に弱い。都道府県知名度、都内犯罪発生件数や火災発生件数、果てはスイーツランキング、等々。良悪の要素を総合してのワーストなのだから救うべき良い要素が必ずあり、ランキングだけの数字に振り回されない目を持つよう心掛けたいものだ。
長い柄にタンポポそっくりの花を咲かせるブタナもヨーロッパからの外来種。意味はブタのサラダと言うのだから飼料になるということか。近年境内や芝地に繁殖しているが、別に今のところ悪さもしていないから、仲間を増やすなら今だ!と応援してやりたいが、図々しかったら許さないよ、と在来種の代弁も。
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宮司の徒然 其の137町田天満宮 宮司 池田泉12月21日 |
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