町田市立博物館より㉙ 昭和の名復刻版!『のらくろ漫画全集』(講談社) 学芸員 今井圭介
漫画家・田河水泡さんは「のらくろ」の作者として知られている。「のらくろ」は昭和6(1931)年の『少年倶楽部 新年特大号』(大日本雄弁会講談社、現・講談社)に掲載され、昭和16(1941)年10月号まで11年近く連載された人気漫画である。チビでやせっぽちの野良犬黒吉こと「のらくろ」が猛犬連隊に入隊し、へまや失敗をしでかしたり、時々おセンチになったりしながら活躍していく。日本のストーリー漫画の嚆矢でもある。
大人気で長蛇の列
『のらくろ漫画全集』はこうした人気を背景に昭和7(1932)年12月から刊行が始まったカラー印刷、布張り箱入りの上製本で全10巻が発行された。定価は1円である。その頃天丼が40銭であったから、今ならば3000円くらいだろうか。本としても安くないが、購入のため人の列ができたという。そして同全集を装幀も当時のままに再現したものが昭和44年に発売された。子供の頃、高価な全集を買ってもらえなかった人がもとめたり、レトロ感たっぷりの洒落たデザインなどもあってか本は売れ、第2次「のらくろ」ブーム、「のらくろ」リバイバルのきっかけともなった。
ご自宅を訪問
筆者も中学生だった昭和40年代中ごろ、この復刻本を手にし「のらくろ」をはじめて読んだ。戦前の風景、トコトコ走る自動車やトラック、ほのぼのとしたストーリーは戦後生まれにも面白く、かつ新鮮だった。本の手触りはやさしく、あたたかみがあった。この時、同級生に玉川学園に住んでいる友人がいて、水泡さんの自宅を知っていることを聞いた。そこで色紙を抱え、連れ立って「のらくろ」の絵をおねだりに伺った。そのお宅は玉川学園前駅からやや急な坂道を上がったところにあった(先日、展覧会にこられた方からこの坂を地元で「のらくろ坂」と呼んでいるのを知った)。記憶では今より周囲の緑も濃かったように思う。玄関へ出てこられた水泡さんはどこの中学生だろうと思われたのではないだろうか。それでも、「後で取りに来て」と言って色紙に「のらくろ」を描いてくださった。今思えば汗顔ものだが、水泡さんにお会いしたのは後にも先にもこの1度だけである(色紙は友人が取りに行った。せっかくいただいた「のらくろ」も残念ながらその後の家の建て替えなどで見当たらなくなってしまった。水泡さんごめんなさい)。
当時の魅力まま
「のらくろ」は今もはば広い世代が楽しんでいる。展覧会場には戦前の『のらくろ漫画全集』も並べてあるが、筆者が「のらくろ」を知るきっかけとなり、今も古書店などで見かけることがあるこの復刻版『のらくろ漫画全集』は当時のままに「のらくろ」の魅力を伝えてくれ、本棚においておくのも楽しい。まさに名復刻版である。展覧会場の水泡さんの写真をみながらそう確信しているのである。
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宮司の徒然 其の137町田天満宮 宮司 池田泉12月21日 |
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