下曽我駅前の老舗菓子店「正栄堂」(穂坂茂代表取締役)が、主に工業製品素材として活用される植物由来の繊維「セルロース・ナノ・ファイバー」(CNF)を配合した、ユニークな和菓子を開発した。食感の向上や製造ロスの減少などの利点があり、同店はこの繊維を他の食品メーカーにも紹介し、食文化を通じて社会に明るさを取り戻したい、としている。
CNFとは、樹木などに含まれる非常に細かい繊維。この繊維を高密度に加工して生産した素材は、軽量ながら強度が高いのが特徴で、近年、自動車の車体製造など、特に工業分野での用途が多様化しつつある。
創業115年の歴史を持つ正栄堂が着目したのは、砂糖の原材料である甜菜(てんさい)を発酵させて生成したCNF。北海道の建設会社「草野作工(株)」が開発した新素材(商品名・Fi(ファイ)bnano(ブナノ))で、北海道産の甜菜を加工した「食べられる」CNFだ。
正栄堂の業務部長・石井孝明さんは昨年秋、草野作工に勤める友人から新素材の存在を知り、商品開発への活用を思い立った。「この繊維は東南アジアの伝統食品『ナタデココ』と同じ発酵法で生産されている。和菓子づくりに生かせば、より食感の良い商品ができるのでは」と、正栄堂の菓子職人に提案し、開発に乗り出した。
最適な配合量は、白玉や焼き菓子など商品の素材によって異なり、開発には試行錯誤の日々が続いた。その過程で、既存の商品に新素材を配合する利点が、滑らかな舌触りなど食感の向上だけではないことが分かってきた。
「繊維が多くの水分を包み込むため、和菓子の保存期間を延長でき、製品をより遠方まで配送することが可能になった。製造ロスの減少にもつながるため、生産者側のメリットが大きい。国連が定めたSDGs(持続可能な開発目標)の達成にも寄与できる」と石井さん。4月にようやく製品化にこぎつけ、5月から販売を開始した。
現在、新素材を配合した「五郎力餅」などの商品を、曽我の本店とハルネ小田原店で販売している。今後は「正栄堂の和菓子を海外にも輸出したい」と熱意を語る。新素材の活用を、小田原市内の他の食品メーカーにも紹介したところ、すでに数社が採用を決定。石井さんは「コロナ禍で社会が疲弊するなか、小田原の地場産業の活性化につながれば」と話している。
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