金沢区の風景写真を収録した写真集「横浜金沢の潮風」を自費出版した 向(しょう)朝喜(ちょうき)さん 平潟町在住 67歳
寡黙な男は写真で語る
〇…「フィルムを見つけた時はもう校正段階だったのですが、これは目玉になるのではと思った」―歌川広重が描いた金澤八景のひとつ「平潟落雁」の構図と同じ写真が、このほど出版した写真集の表紙を飾る。わずか50年ほど前は、まだ江戸時代の風景が残っていたことがうかがえる。「これで雁が飛んでいれば完璧なんですけど」。写真集には自然豊かなこの地が、埋め立てや開発で姿を変え始めた昭和30年から40年代に撮りためた300枚以上を収録。「思い出ある風景を後世に残したかった」と照れくさそうにつぶやく。
〇…カメラ店の店先でたまたま目に入ったカメラ「オリンパスペンFT」。「シャレている」と即購入し、写真に夢中になったのがハタチの頃。仕事が休みの土日には、カメラを携え外出し、様々な風景や人物を撮ってきた。野島や小柴で魚釣りや潮干狩りをする人々、埋め立て前の柳町、金沢山から切り崩した土を運ぶベルトコンベヤー…。いい構図だなと思えば迷わずシャッターを切った。「(開発で)とても便利になったけど、昔の風景も残って欲しいねえ」。地元への愛着がにじむ。
〇…金沢湾は、カキ養殖の父と呼ばれた宮城新昌が初めて養殖場と研究所を作った地。宮城の親戚だった父親は、昭和初期に研究員として沖縄から移り住んだという。自身は金沢の海辺で生まれ、目の前の海の幸で育ち、葉山の漁師に紹介された造船所に就職。「海」とは切っても切れない絆を感じる。「写真もなぜか海を写したものが多いんだ」
〇…今でもカメラは出かけるときの必携品だ。10月に家族で八景島に花の写真を撮りに出かけた時のこと。「写真でなく、代わりに子ネコを拾ったんです」。以来、一番の被写体として活躍しているのだとか。「本当に可愛い」と目を細める。「これから撮りたいのは家族。大好きですから」。しゃべるのは苦手という寡黙な男は、家族への愛情さえも写真に込める。
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