東急建設(株)(寺田光宏代表取締役社長)はこのほど、栄区の上郷猿田地区で進めていた開発計画を断念した。計画廃止の理由について同社は、盛り土安全対策への負担や物価高騰によるコストの増加を挙げている。地元からは歓迎の声も上がる一方、今後について関係者は「協議の中で決めていく」とした。
上郷猿田地区の開発計画が最初に立ち上がったのは約40年前。その後、07年に東急建設(株)が都市計画提案を行ったものの、地域住民の賛同が得られないなどとして08年に白紙に。14年に再度同社が都市計画提案を申請し、18年に都市計画審議会で可決された。
対象の計画地は約32 haで、そのうち西側の約11 haに商業施設や医療施設の誘致、共同住宅の配置を行う市街地エリアとして、25年3月の工事完了を予定していた。それ以外の部分については自然保全エリアと位置づけられ、樹林地の保全や都市施設の公園の整備などが計画されていた。
同地区の今後や、残りの自然保全エリアの計画について市都市整備局地域まちづくり課の担当者は「市と事業者、地権者の協議の中で決めていく」とした。同社の広報担当者は「これまで通り環境維持・保全に引き続き努めたい」と話した。
開発を断念した理由について同社の広報担当者は、谷戸を埋める際の盛り土対策と、資材等の物価高騰によるコスト増加を挙げ「配慮事項が増え、施工計画自体が難しくなった」と話す。
「素晴らしい決断」
開発計画の中止と緑地の全面保全を長年にわたって訴え続けてきた、認定NPO法人「ホタルのふるさと瀬上沢基金」の角田東一理事長は「素晴らしい決断に敬意を表する。問題提起を始めて10数年経つが、時代の流れもありようやくここまできた」と開発中止を評価。一方で「この後どう活用していくのか気がかり。まだ気は抜けない」と心配を口にした。
同地区はカワセミなどの野鳥や昆虫類などの生息域としてこれまでも保全を訴える市民活動が続けられてきたほか、計画地の一部には古代の製鉄遺跡「上郷深田遺跡」も含まれている。過去には市民団体が、11万7千筆の反対署名を集めたこともある。
角田さんによれば同地区の開発は、こうした動植物の生息地破壊だけでなく、山を切り崩すことによる周辺地域への風害の発生、樹木伐採による地球温暖化進行などが懸念されるという。地盤についても「湿地帯のため水抜きが難しいのでは」と、震災時の被害拡大の可能性を指摘していた。
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