町田市立博物館より㉑ わたし削る人 あなた吹く人 学芸員 齊藤晴子
町田市立博物館で現在開催中(11月27日まで)の「青野武市(あおのたけいち)作品受贈記念―ガラスに、彫る―日本のグラヴィール」展では、江戸・明治から現代までのガラス作品約120点を展示しています。「グラヴィール」というのは、ガラス表面を削って絵画的な文様を表す技法のことで、近代日本を代表するグラヴィール作家、青野武市(1921〜2011)の作品87点が町田市に寄贈されたことを記念して本展覧会は企画されました。
青野武市は姫路の生まれで、各務(かがみ)クリスタル製作所(現カガミクリスタル株式会社)に入社し、30年ほど会社勤めをしながら作家活動を行ったのちに独立した作家です。ご遺族が公立の美術館・博物館への寄贈を希望されており、当館が長年ガラス工芸の収集・展示を行ってきたことも評価され、このたび多数の素敵な作品をご寄贈いただく運びとなりました。
試行錯誤の末
さて、日本のガラス工芸史について詳しい方なら、青野武市といえばまず赤色のガラスに植物文をあしらったグラヴィール作品を思い浮かべたりするかと思いますが、今回の展覧会ではその「いかにも青野武市」らしからぬ作風の作品も多数展示されています。若い頃に制作した幾何学文様の花瓶や独立してすぐ制作した動物文の皿などを見ると、「いろいろと試行錯誤の末、よく知られる作風にたどりついたのだなあ」ということがわかります。
皆さんよく誤解されるのですが、グラヴィールなどガラスを加工する作家さんや職人さんたちは、自分でガラスを吹いたりはしません。ガラス工芸の世界は基本的に分業制なので、ガラスを吹く人はひたすら吹き、加工する人はひたすら加工します。ちなみにカット(切子(きりこ))の世界も同様で、江戸切子の職人さんたちも、加工する前のガラス生地は別のところに発注して、自分のところでは加工のみを行っています。青野武市の場合もこの例に漏れず、ガラス生地は別の職人さんに注文して吹いてもらっていました。
日本国内の美術館・博物館でグラヴィールの作品が展示されるのは稀で、また日本のグラヴィールの歴史をたどる展覧会は今回が史上初のこととなります。青野武市の作品以外にも貴重な作品が多数並んでおりますので、この機会にぜひご来館ください。
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宮司の徒然 其の137町田天満宮 宮司 池田泉12月21日 |