洞窟の角度が冬至の朝日の角度と同じ――。栄区田谷町にある素掘りの地下空間「田谷の洞窟」の調査と保全活動が進んでいる。調査報告会が24日、千秀センターで開かれた。洞窟の実態を解明する研究者や保存実行委員会の報告に住民らが熱心に耳を傾けた。世界からも注目され、4月からはイタリア国立研究機構との共同調査が始まるという。
「土木的な視点、地理的な視点、文化財的な視点、どの点から見ても非常に貴重である。地域の誇りであり、関心を持ってほしい」。そう呼びかけたのは「田谷の洞窟保存実行委員会」実行委員長の田村裕彦さん。
田谷の洞窟は定泉寺の境内にあり、800年前の鎌倉時代から存在する真言密教の修行場。人工の素掘りで何百年もかけて形づくられた。全長は570mあり、内部の壁面各所に仏像や生き物、梵字の曼荼羅(まんだら)などがレリーフ状に彫られている。1990年に横浜市の地域史跡に登録された。ただ近年は劣化が進み、豪雨後に壁面が剥がれ落ちることもあるという。
調査・保存活動のきっかけは、3年ほど前に建築設計事務所を営む田村さんが洞窟の補修に携わったこと。全国の研究機関を調べ、埼玉大学や東京大学、鶴見大学などの研究者の協力を得ることができた。
報告会で田村さんは「この時代にどうやって2つの穴を直線にしかも平行に掘ることができたのか。土木技術としても非常に興味深い」と話し、測量したところ「直線の部分の角度が800年前の冬至の朝日の角度だった」と報告。乾燥に弱い地質であることも判明し、今後は密閉式のドアに改修するという。
3次元データや画像データよる保存活動も進み、ボランティアとして撮影に取り組んだ金井高校1年の杉山暉さんと鶴見大学附属高校1年の中藪綾さんも登壇。レリーフについて、専門家の協力を得ながら時代背景や形跡などを調査し、「盛った粘土を彫る石胎塑像(せきたいそぞう)の技法を使ったと考察できる」と報告した。
また地元の千秀小学校の6年生が専門家の指導を受けながら作成した1000分の1の地形模型もお披露目され、参加者は関心を寄せて見入っていた。
参加者のひとり、田谷町の加藤勝彦さん(71)は「小学生の頃に中で遊んだことがあるが、改めてすごいものだと思う。長い間地元の人が築き上げたものを生かせるといい」と話していた。
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