町田市立博物館より【1】 「青花鳥文瓢形水注」 学芸員 矢島律子
町田市立博物館は東南アジアの古い陶磁器を1500点近く所蔵しています。かれこれ22年ほど前、「東京近郊でコレクションを大事にしてくれそうなところ」といって白羽の矢を立てられたのが御縁のはじまりで、山田義雄氏の寄贈560点を皮切りに中村三四郎氏、木内知美氏、上神亮治氏のコレクションが「東南アジア陶磁なら町田」といわれて寄贈されてきました。今ではその量と質で世界一といえるコレクションに成長。今回は、ベトナム陶磁を1点ご紹介します。
江戸時代の初めから日本人はベトナム陶磁を「安南(あんなん)」といって愛玩してきた歴史があります。
図版の作品は、ベトナムが大越国として最も栄えていた15世紀後半ごろに作られました。ひょうたん形をした水飲み用の瓶で、ベトナム中部の都市、ホイアンの沖合に浮かぶク・ラオ・チャム島のそばに沈んでいた古い貿易船から発見されたものです。
頭部には細く短い注ぎ口が付いています。くびれた部分を親指と人差し指ではさみ、腹部を掌でつかんで高く上げ、注ぎ口から流れ出る水を口に滴らせて飲みます。アジア南部では一般的な、クンディと呼ばれる水瓶の一種ですが、これほど優雅な姿は珍しいです。
半磁器質の肌はふんわりとやわらかな卵色をしていて、その風合いが日本人を惹きつけます。白い素地に青く絵文様を描いたものを染付(そめつけ)とか青花(せいか)といいますが、実は、その顔料となるコバルトは遠い中近東から輸入するしかなかったので、大変高価なものだったのです。この水注には特に上質の青花顔料を使っていて、深く鮮やかな発色を見せています。繊細な筆使いで、頭部には蓮と水禽、腹部には岩に茂る竹木と数種の鳥が描かれています。ベトナム青花には、このように絵画風の優れた文様表現がみられます。水注の軽やかな姿と品格のある絵文様との相乗効果で、独特の風格を持った繊細で高雅な作品に仕上がっています。
ク・ラオ・チャム島の沈没船からは30万点ものベトナム陶磁が発見されています。当時のベトナム陶磁生産の規模の大きさと水準の高さが、従来の認識をはるかに越えていたことを示しています。
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宮司の徒然 其の137町田天満宮 宮司 池田泉12月21日 |
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